SIGNATURE2017年05月号
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柳家花緑(以下、花緑):お座敷での落語といわれて思い出すのは吉原にあった松葉屋さんのこと。松葉屋さんと小さん(五代目柳家小さん。花緑師匠の師匠であり祖父)とのご縁で、第1・3金曜日に10年以上にわたって会を設けていただいていた経緯があります。山本益博(以下、益博):料亭のお座敷で落語と言われても、ピンとくる方は少なくなったかもしれませんね。ですが料亭のお座敷といえば、芸者さんや幇間をはじめとする日本独自の芸能を育んだ場所。また落語家も例外ではなくて、実業家や政治家はご贔屓の落語家を自分のお座敷に呼んでいたものでした。とくに東京の料亭は日本の芸が集まる芸どころです。この「場」に潜んでいる文化は東京の財産であり、それはこちらの『新喜楽』も同じだと思います。花緑:先ほど落語の会場になる大広間を見せていただいたのですが、天井はほうかん高いし、とても立派で驚きました。益博:天井が高い! 6月の落語会では見栄えのいい高座がつくれますね。花緑:そうなんです。ふつうの天井の高さで高座に座ると、(一段高くなっているため)天井に頭がつっかえるように見えてしまいますが、頭上にまだまだ余裕の空間がある! それだけでも恰好がいいんです。でもちょっと落語には贅沢過ぎるかもしれません(笑)。益博:お客様も32人限定ですからこちらも贅沢ですよね。演者の息継ぎが聞こえるほどの距離で、仕草のひとつひとつを見ながら芸を堪能できるのですから、これはお客様にとっても間違いなく得難い体験になると言い切れますね。師匠にとっても、いつもとは違った距離感での高座ですし、特別な思いがあるのでは?花緑:マイクを通さない「生声」というところから違いますよね。お客さまとの距離も近く、細かな芸のひとつずつを見ていただけるのは楽しみです。近しいだけに一体感のある高座ができるのではないかと期待している一方で、やはりイレギュラー、特別な空間だという気持ちはありますね。益博:あまりに演者との距離が近く、またお座敷での落語に慣れてないと、お客さまのほうが緊張してしまうかもしれませんね。なにしろ師匠とバッチリ目が合っちゃいますから(笑)。花緑:そんなお客さまのために、僕の落語の前に益博さんとの四方山話の時間が用意されています。ざっくばらんなお話でリラックスしていただいてから、僕の高座へという流れですので、ご安心ください(笑)。益博:そして高座の後は新喜楽さんのお料理を堪能いただける。いまの時代、なかなか体験できないプログラムになっていますね。料亭の料理は室内でつくられる空気とともに楽しむものですから、料理は主役然としていない。けよもやまばなし対談柳家花緑山本益博落語は、演じる人間の技術や能力によって、深くも広くもなる、まさに座布団一枚の宇宙――花緑料亭の料理は空気を愉しむもの、そのお座敷で落語が聴ける、こんな贅沢なことはない――益博デジタル版シグネチャーの紹介記事も併せて御覧ください。55http://www.diners.co.jp/ja/sig/533/

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