SIGNATURE2017年06月号
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 私たちは生きている限り、離別を避けて生きることはできない。 そうして離別の直後から、私たちに忍び寄る哀しみもまた避けることはできない。 十人の人に、十の〝哀しみのかたち〞があるのではなく、一人の人間がかかえる〝哀しみのかたち〞は多様であり、その度合い、迫りくるかたちも千差万別である。 若いうちはただ嘆き、人によっては途方に暮れてしまう。しかし或る程度、人生の分別がつくような年齢になると、哀しみをかかえる術のようなものを持つようになる。それはたとえば祖父母との別れ、両親との別れ、友や知人との別れにもいくつか遭遇し、その経験が、必要以上に哀しむことで生じる動揺をなるたけやわらげようとする、生きる知恵、術を身に付けるからだろう。 だが特別に近しい人を喪失すると、その動揺をいかにコントロールしようとも、哀しみは、まるで魔法のごとく、残された人に忍び寄るものである。すべ8Text by Shizuka IjuinIllustrations by Keisuke Nagatomo

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