SIGNATURE2017年06月号
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ャーナリストだったエヴィ・エイダスタッドさんは、ストックホルムから100キロ西のセーデルマンランド地方ヴゲヴィーに、6年前に引っ越して来た。人生の後半を翻訳や原稿チェックなどの仕事に切り替え、動物との田舎暮らしを選択した。昔は島だったというフグド地区にある集落の家を購入、オリジナル部分は300年前に遡る歴史的建物で、シカやキジも見かける大自然に囲まれている。 女性一人で人里離れた一軒家に住んでいても怖いと思ったことはないというエヴィさん。スウェーデンの治安のよさと彼女の独立心を改めて感じた。 「ストックホルムにも10年ほど住んでいたことがありましたけれど、週末になると近所で酔っぱらって大きな声を出す人がいて、そんな時のほうが何かあったらと心細くなりました。それに犬や猫にとっては郊外にいる方がずっと幸せですから」 実際にご本人も引っ越してから血圧が下がり、都会の生活よりもストレスを感じなくなったという。小さな頃から犬や猫と生活を共にすることが家族の伝統でもあったというエヴィさん。イタリアに住んでいたこともあり、その頃から連れて帰って来たワンちゃんと、ニャンコもいた。冷蔵庫を開ける頭のいい猫だったと子供を思うような眼差しで思い出を語ってくれた。数年前にここで永眠したが、家の裏手にお墓をつくり、そこでひっそりと眠っている。 今は、キャットドアを出たり入ったりと自由奔放なトロレット、マティス、プッテの3匹と暮らしている。エヴィさんはたいてい、保護をした動物を引き取っている。 「スウェーデンでは動物園でゾウの赤ちゃんが死にそうになったりすると大きなニュースになります。動物好きな国民だとは思います。ただ、子供のためにと猫をプレゼントしても、世話をできずに手放している人もたくさんいますよね。田舎に来ると農家の人たちはネズミを寄せつけないからと、猫を飼うことがあります。去勢をしないので、子猫は増えるばかり。寒い冬など結局、食べるものがなくて凍えてしまうケースもあるのです」 エヴィさんは、猫と暮らすのは流行りにはなっているものの、生き物を責任を持って育てない人たちには批判的だ。彼女は納屋に古いソファを置き、毛布を敷いて野良猫が冬でも生き延びられるような場所もつくっていた。黒いフサフサの毛に首回りの白いおひげが印象的なトロレットも家の外で出会った。彼の名前はスウェーデン語で森の神様や妖精を意味する。非常に社交的だったので、2週間後には家の中に入れてあげて家族になっていたそうだ。 「あるとき、リスの親子が軒先の鳥の巣を住処にしたことがあって、1匹が事故死したので、旅立つ時に残りの3匹と私にさよならを言いにきました。触っても全然大丈夫、安心しきっていましたね」 動物好きに悪い人はいないというが、そんなエピソードを話すエヴィさんの目はキラキラしていて、本当にそうだなあ、と実感した。44写真・机 宏典Photographs byHironori TSUKUEViggebyジ郊外に暮らす“家族の在り方”エヴィさんの動物との暮らしA Rural Retreat with Loving Friends

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