のや。人間がこしらえたもんには、それ相応の値が付くもんや。その人が、それを作れるようになった時間を買うのんが、大人の男の持つ道具やで。あんたがいつも言うてるやないか、銀座の鮨屋で、オヤジの前に座って鮨が食べられるようになるまで、いったい何年かかったと思うんや。鮨屋は、女、子供が来るとこと違うて。あれと同じや」 私はトモさんに、大人の男の生き方、遊び方を、時間をかけて教わったのだろう。 今思うと、大切なことは、どんな時間がそこにあったのかということかもしれない。 もう私が打ったピンポン玉は戻ってくることはないが、丁寧に打ち返してくれるピンポン玉があったから、私にも少しではあるが、生きるフォームができたのだろう。 ありがとう、トモさん。̶̶そういうことか……。11一九五〇年山口県防府市生まれ。八一年、文壇にデビュー。小説に『乳房』『受け月』『機関車先生』『ごろごろ』『羊の目』『少年譜』『星月夜』『お父やんとオジさん』『いねむり先生』『ノボさん 小説 正岡子規と夏目漱石』など。エッセイに、美術紀行『美の旅人』シリーズ、本連載をまとめた『旅だから出逢えた言葉』などがある。最新刊に『東京クルージング』(角川書店)、累計一六四万部を突破した大ベストセラー「大人の流儀」シリーズ待望の第七弾『大人の流儀7 さよならの力』がある。Shizuka Ijuin
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