ざいゆうさる4月5日、オーストラリアのメルボルンで、2017年「世界ベストレストラン50」の授与式が開催され、長谷川在佑氏率いる『傳』が、45位で初のランクインを果たした。その初受賞の感想と今後の矜持を、アワードから帰国したばかりの長谷川氏に聞いた。ベスト50初ランクイン世界のシェフを引きつける店を超えるアワードのフラッグが翻り、フリンダースストリート駅前には巨大スクリーンが設置され、アワードを生中継した。会場となったメルボルンの歴史的建造物『ロイヤル・エキシビション・ビルディング』には1000人を超える関係者が詰めかけ、〝食のアカデミー賞〞にふさわしい過去最大規模のイベントとなった。 幸運にもそのレッドカーペットを踏めるシェフは、全世界から投票で選ばれたトップ50のレストランと各特別賞の受賞者のみ。その中に長谷川在佑氏の姿があった。日本料理の『傳』が、45位で待望の初ランクインを果たしたのだ。このアワードは今年で15周年を迎えるが、日本のレストランがランキングされるのは歴代4店舗目。しかも、38歳の若さでの初入賞は、後進の若手にも大きな勇気を与えることになった。の日、メルボルンはお祭りムード一色になった。市内には数百 長谷川氏は1978年に東京で生まれた。高校を卒業すると、憧れだった日本料理の道に飛び込んだ。2008年に29歳で独立。千代田区・神保町に『傳』を開店させた。6年ほど前には、ブラジルの世界的シェフ、アレックス・アタラ氏の誘いに応え、ブラジルで一緒に料理をしたことがきっかけで、世界のトップシェフたちにも知られる存在になった。 長谷川氏の日本料理は、かなりユニークだ。ファストフードのパッケージを模した「DENタッキー」や、人の顔を模した野菜の盛り付け料理で客を喜ばせる。一方、「あれは日本料理ではない」と国内の同業者から批判を受けることもしばしば。しかし、長谷川氏はただ奇を衒うだけでも、ポップな手法に淫しているだけでもない。海外のゲストに日本料理の魅力を伝えるためには、時にシンプルでユニバーサルな強いメッセージ性も必要だと考えている。 日本料理はカジュアルな居酒屋か写真・永田忠彦 文・中村孝則(コラムニスト) ら高級な懐石料理まで振れ幅は広いが、イタリアンやフレンチのように階級的に構築されているわけではない。しかも、日本の伝統文化を背景にした四季折々の慶弔祭事の約束も多い。そこにストレスを感じる海外のゲストは少なくない。最終的には、日本料理を通じてその奥にある精神性を伝えることが自分の使命であることも承知したうえで、あえて伝統を崩すことも必要だと訴える。 「美味しさ」にもリテラシーがある。ゲストが海外のビギナーであれば、わかりやすい料理で提供するのもプロのホスピタリティではないのか。アワードの結果は素直にうれしいが、今はゲスト一人ひとりに寄り添い、とことん楽しませることに徹したいと長谷川氏は言う。 7年後の夢は、『傳』をクラシックな懐石料理店に回帰させること。国内外のゲストと共に成長し、日本料理の奥深さを伝えたいと願っている。WORLD’S50BestRESTAURANTS201762Information傳住所:東京都渋谷区神宮前2-3-18 建築家会館JIA館電話:03-6455-5433(予約受付時間12:00-17:00)定休日:日曜*2017年5月15日(月)から5月25日(木)まで 海外研修のためお休み。長谷川在佑 高校卒業後、新宿区神楽坂の日本料理店などで修業を積んだ後に独立。2008年に『傳』を開店。今年の「アジアベストレストラン50」では、最優秀ホスピタリティ賞も受賞。神保町から神宮前に店を移転したばかり。こ
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