競馬の祭典にして頂点、「ダービー」。サラブレッドが一生に一度、3歳のときにしか出られない最高峰のレースが近づいてきました。 「ダービーだけがレースではない。しかし、他のレースはダービーではない!」。競馬発祥の地・英国が生んだ20世紀最大の名騎手、レスター・ピゴットは、かつてこう語ったそうです。英国ダービーを9回優勝、沈着冷静、ほとんど無表情のピゴット騎手を、それほど高揚させる何かがダービーにはあるということなのでしょう。 冬の牧場事務室で生産者が血統表を見つめ配合を考えるとき。春に免許を手にして晴れて新人騎手になったとき。馬を買いたい人が夏のセリ市に向かうとき。期待馬が初勝利を飾り、澄みきった秋晴れの空を見上げて調教師が「よし!」とつぶやくとき、頭にあるのはみなダービーだといいます。 「ダービー馬のオーナーになることは、一国の宰相になるより難しい」という、vol.0767右上:ディープブリランテ(2012年)、右下:ドゥラメンテ(2015年)、左:オルフェーブル(2011年)は、いずれもサンデーサラブレッドクラブの所属馬だった。5月28日開催の今年の日本ダービーには、2017年皐月賞を制したアルアインと同3着のダンビュライトが同クラブから出走予定(2017年4月末現在)。アルアインはディープインパクト、ダンビュライトはルーラーシップを父にもつ超良血馬だ。レースの向こう側のストーリー競馬を深く知るための、文・鈴木淑子(競馬パーソナリティ) 写真・原 智幸サー・ウィンストン・チャーチル元英国首相の名言もあります。 競馬に携わる誰もが、一度は勝ちたいと願うのがダービーです。 日本ダービーは、同世代に生を享けた約7000頭の中から勝ち上がってきた、わずか18頭しか出走できない夢舞台。立つだけでも至難の業のステージで、2011年オルフェーヴル、2012年ディープブリランテ、2015年ドゥラメンテと、最近6年で3回優勝という輝かしい実績を残しているのが、(有)サンデーサラブレッドクラブの所属馬たちです。一口出資している仲間たちとダービーオーナーの喜びを分かち合えるとは、なんという幸運なのでしょう。 オルフェーヴルは、2歳時のデビュー戦を完勝するも、ゴール後、パートナーの池添謙一騎手を振り落とすというやんちゃぶり。その破天荒なところもファンの心をつかみました。ダービー当日は、土砂降りの雨、不良馬場の厳しい条件の中、最後の直線では狭くなった進路をうこじ開ける根性を見せ、一気に突き抜け優勝。美しい栗毛の馬体を泥だらけにしながら、皐月賞に続き二冠を制しました。 ディープブリランテは、2着馬と大接戦の末ハナ差で勝ち取った栄誉でした。父は2005年のダービー馬・ディープインパクトで、「ダービー馬はダービー馬から」の格言を実現し、父に初のダービー親子制覇をプレゼント。 一冠目の皐月賞を制し、曽祖母・ダイナカール、祖母・エアグルーヴ、母・アドマイヤグルーヴに続く母子4代にわたるGIレース優勝の偉業を達成したドゥラメンテは、ダービー馬の称号も手にしました。今年から種牡馬入りしましたが、この先、日本競馬の至宝といえるその血統からどんな子どもたちを送り出してくれるか、楽しみです。 さあ、5月28日、東京競馬場、芝2400メートルを舞台に、今年はどんなドラマが繰り広げられるのでしょうか。第84回日本ダービーの栄えある勝者を、万雷の拍手で祝福しましょう。Text by Yoshiko Suzuki Photographs by Tomoyuki Hara(FORSEER photo)レースの中のレース、ダービー
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