SIGNATURE2017年07月号
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王 侯貴族やセレブリティたちを飾ってきたハイジュエリーを、日本の工芸の技とともに紹介する展覧会「技を極める||ヴァンクリーフ&アーペルハイジュエリーと日本の工芸」展。宝石の輝きと工芸の超絶技巧がひしめくその会場で、ひときわ鮮烈な存在感を放っているのが、人間国宝・森口邦彦の大胆なモノトーンの友禅着物だ。 友禅染は、江戸時代の絵師・宮崎友禅斎の名に由来する技法。文様の輪郭を米糊などで防染し、隣り合った色が混じらないようにすることで、無限の多色使いの文様染を可能にした。その友禅にあえて色数を絞った「単彩の美」を描いたのは森口の父・華弘(人間国宝)だった。森口邦彦はさらに、線や文様を絵画のように自在に描けるという友禅染の自由度をラディカルに生かし、直線や幾何学的な文様を展開して見せた。 美大を卒業後、渡仏しグラフィックデザインを学んだ後に友禅の世界に入った。父とは別の道を歩もうとしていたが、それを翻心させたのは、当時から親交が深かった画家・バルテュスの強い言葉だった。いわく「日本には素晴らしい文化遺産がある。それを継ぎなさい」と。 「僕は美に対する姿勢をバルテュスから教わったと思っています。彼は『継ぐ』というのは、様式を真似ることではないとわかっていた。バルテュスはヨーロッパ最後の具象絵画の担い手で、彼にとってのお師匠さんはピエロ・デッラ・フランチェスカだった。それをニコラ・プッサンが継ぎ、クールベが継いで、さらに文様は、着装し動いた時の変化を計算し、〝女性を美しく見せたい〞という思いでつくります。飾りだけの文様は必要ありませんかこう14森口邦彦《友禅着物「雪舞」》2016年 絹、友禅染(※6月18日までの展示。6月20日からは友禅訪問着「雪明り」が展示されます)前ページ左の帯:森口邦彦《染帯綾文》2016年 絹、縮緬、友禅染

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