たりとも口を揃えて「日本は私たちにとって特別な国、〝第二の故郷〞です」と言う。公演で世界を飛び回るレーピンが初来日したのは30年前、同じくザハーロワは20年前だったが、初めて両者が顔を合わせたのは8年半前の東京だった。当時ボリショイ・バレエのプリンシパルとして来日していたザハーロワは公演先の札幌に滞在していたが、「ロシアが誇るマエストロたち、指揮者・ゲルギエフとヴァイオリンのレーピンが東京で共演すると知り、急遽、東京に飛びました」。ふたりは会った瞬間から惹かれ合い、東京でロマンスが始まり、結婚するに至った。「それ以来、私たちは公演がある時を除いていつも一緒にいます。磁石のようにぴったりと!」「ダー、ダー(そのとおり)」。 おそらくその時からふたりの胸には〝舞台での共演〞の計画が育っていたのだろう。それが実現したのは、レーピンの故郷、ロシア第3の都市ノヴォシビルスクで2014年に発足した「トランス=シベリア(シベリア横断)芸術祭」においてだった。レーピンは多忙な演奏活動のかたわら自ら芸術監督を務め、膨大な人脈を駆使して音楽界のみならず、バレエ、ダンス、美術、映画など各分野の才能を結集させて、シベリアを新たな文化の発信地にした。この芸術祭は翌年にはシベリア数都市とモスクワでも開催され、2016年にはサンクトペテルブルクほか2都市に加え、レーピンのたっての希望で、目玉公演、レーピンとザハーロワの夢のコラボ《パ・ド・ドゥ》が日本に初上陸した。そして芸術祭4年目の今年も東京と前橋で上演されるという訳だ。 《パ・ド・ドゥ》は、レーピンのヴァイオリン独奏とザハーロワの踊りが、オーケストラ伴奏で多彩に展開される。文化の層が厚く、奥が深いロシアでも、ユニークさ、芸術性の高さ、楽しさにおいて、唯一無二のイベントだ。レーピンはヴァイオリンの超絶技巧を駆使しながら全プログラム弾き詰めだが、ザハーロワもクラシックとモダン両方のバレエを、息を呑む美しさと卓越した表現力で舞い切る。とりわけヴァイオリン・ソロとバレエが一体化した《瀕死の白鳥》は、さながらふたりの愛の対話だ。舞台上ではふたりの間にどんな電流が流れているのか?という問いにレーピンは、「彼女はバレエのプリマというだけではなく、音楽を最高のレベルで理解し、身体で表現できる稀有なアーティストです。ステージでは共演者との対話能力が不可欠ですが、彼女と私との間では〝リードしリードされる〞というバランスが完璧に取れています。私の心臓は彼女が動き出すと感動で震え始め、この瞬間が永遠に続いてほしいと願う気持ちになります」と語った。 もう一つの演目、日本初演の《アモーレ》は、ザハーロワがプロデュースし、昨年モスクワで発表して絶賛を浴びた新企画。気鋭の振付家3名が彼女のために振り付けた3つのバレエを、彼女とボリショイ・バレエのスターたちが踊る。これについてはザハーロワが熱く語った。 「3つのバレエはアモーレ(愛)という目に見えない糸で結ばれています。チャイコフスキーの幻想曲に振り付けた《フランチェスカ・ダ・リミニ》は、禁断の愛に燃えた恋人たちが地獄に堕ちる悲劇を描いたクラシックバレエ。バッハほかの音楽を用いた《レイン・ビフォア・イット・フォールズ》は、女性の心の孤独と幻影を描いたモダンバレエ。《ストロークス・スルー・ザ・テイル》は、モーツァルトの交響曲に想を得た振付家が、ダンサーを音符に見立てた、ユーモラスで音楽ヘの愛に溢れたバレエです」。バレエファンにとっては絶対見逃せない3部作だろう。 レーピン&ザハーロワ夫妻には、6歳になる愛娘・アンナちゃんがいる。プリマにとって長期のブランクを意味する出産は大きな決断だったのでは?ふ おにザハーロワは「もちろんワンシーズン休まなくてはならないことも、復帰の難しさも知っていました。でも私たちに子供ができたと知った日は、そんなことは頭に浮かばないほど人生で一番幸せでした。子供が生まれてから、日々生きてい の問いるという感触が新たになりました。ふたりとも夢中になって娘を愛しています。でもアーニャ(愛称)は、親が甘いということを全然悪用しないお利口さんで、パパと同じように才能があって……」「いや、ママと同じようにきれいで、才能があって……」。 お互いの芸術の厳しさを理解し合い、手を取り合って新たな芸術の扉を開くレーピンとザハーロワ。私生活でも舞台でも、究極の愛のコラボレーションは続く。14ワディム・レーピン&スヴェトラーナ・ザハーロワ ©Massimo DanzaTicket Information2017年9月26日(火)・27日(水)19:00開演出演:スヴェトラーナ・ザハーロワ、ミハイル・ロブーヒン、デニス・ロヂキンほか2017年9月29日(金)19:00開演出演:スヴェトラーナ・ザハーロワ、ワディム・レーピン(ヴァイオリン)、デニス・ロヂキンほか会場:Bunkamuraオーチャードホール 料金(会員特別価格):S席16,000円(税込)*公演チケットのご購入はカンフェティチケットサービス受付デスクまで、96ページのお申し込み方法をご確認のうえ、オンラインもしくは、お電話でお申し込みください。トランス=シベリア芸術祭 in Japan 2017 「アモーレ」(日本初演)「パ・ド・ドゥ for Toes and Fingers」
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