SIGNATURE2017年08_09月号
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なれにくを凍らせて? 「お父様は野球がお好きですよね?」。オーナーの渡邊さんと挨拶をすると、誰もがそう言う。なぜなら名前が塁さんだから(笑)。その渡邊さん、野球ならぬ牛肉にかける思いはハンパなく熱い。熟成肉の美味しさを、ほかにない形でお客さまに完璧に伝えたい――そんな一心で、シェフと二人、日々新しいメニューを開発し続けているのだ。 そんな渡邊さんが仕切る、オープンからまだ6か月の『なれにくせん』のメニューは、実に新感覚。そもそもこの店では〝熟肉=熟成肉〞しか出さない。滋賀県の郷土料理・鮒寿司の作り方を応用し、麹をベースにしたタレに牛肉を漬け込んでウェットエイジングする。部位の繊維の硬さによって漬け込む日数も変え、肉るいなれにくの旨みをよりいっそう引き出しているわけだ。 最初のアミューズは「泡立てたミルクをトッピングしたズッキーニのスープ」。抹茶碗で飲むことによって、スープとミルクが口の中でほどよく混じり合い、優しい味となる。次に「巻・削・揚」と書かれた不思議なメニューが並ぶ。その中から「今月の一皿」として本邦初公開するのは、「削」。季節の野菜のスープの上に、ウェットエイジングをかけた神戸ビーフの冷凍ローストビーフを鰹節のように削り出す。バターナッツというかぼちゃのスープの甘さと、解け始めているローストビーフの組み合わせはとても涼しげで、これからの季節にぴったりである。舌の上で解けていく食感で、肉の甘さが余計に感じられる。さあ、「巻」と「揚」はなんだろうとワクワクすることだろうが、それは店でのお楽しみにしておこう。 メインのステーキは、運がよければ年間15頭前後しか出荷がない、貴重な近江牛のサーロインに出合えるかもしれない。赤身と霜降りの食べ比べはこのうえない幸せだが、そのためには3〜4人で行かれることをおすすめする。 渡邊さんはすべての料理に野菜を付け合わせ、野菜と肉の甘みのマッチングを日々研究しているとのこと。若いオーナーの熱い話は聞いているだけで楽しい。そうそう、シメの半田めんは、コンソメと和出汁を合わせたおつゆでいただく。お代わりは、必至である。わだし 16住所:東京都港区六本木3-9-4 ロイヤルビル1F電話:03-6721-0288営業時間:17:00~24:00定休日:不定休なれにく せんメニューは、神戸ビーフ120gのグリルがメインのレギュラーコース(12,960円/税込)と稀少な近江牛を取り入れた特別コース(時価・完全予約制)の2種類。いずれもスープ、前菜、メイン、半田めん、デザート付き。(完全紹介制のところ、ダイナースクラブ会員に限り予約可能。予約時はダイナースクラブ会員である旨を必ずお伝えください)。オーナーNumberPhotographs by masaco (CROSSOVER) Text by Tomoyasu ShitayaRui Watanabe今月の一皿渡邊 塁122

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