伝統技術に現代の息吹を注ぐ、美の匠の人生に触れる展覧会 フランス人間国宝(メートル・ダール)制度の始まりは、1994年に遡る。日本の重要無形文化財保持者(通称〝人間国宝〞)にならって、フランス文化・通信省が制定したものだ。フランスにおける工芸の賞は、料理界でよく知られるMOF(国家最優秀職人賞)や、企業に授与されるEPV(文化遺産企業認定)があるが、メートル・ダールは最も権威ある称号とされている。2016年現在、認定者は124名を数える。 「その中の精鋭13名と、次期・人間国宝と期待されている2名の作家による作品200件余りを総覧できる展覧会を東京・上野の東京国立博物館で開催することになりました。75パーセントが、本展のために新たに創作される作品となります。この『フランス人間国宝展』をきっかけに、今後、日本とフランスの工芸分野での交流がより活発になることを目指しています」 そう教えてくれたのは、この世界初の試みとなる展覧会のキュレーションを行うエレーヌ・ケルマシュテールさん。実際にどのような作家の作品が一堂に集うのか、美しい数々の写真とともに説明してくれた。色とりどりの羽根細工や、宮廷文化の時代が偲ばれる華麗な扇子、何世紀も前の肖像画に描かれているような優美な傘、息を呑むほどに壮麗なガラス細工など、まるで夢の世界を覗いているように幻想的だ。 「初めて彼らの作品を目にしたとき、瞑想しているような感動に包まれたことを覚えています。顧客のほとんどは世界の王族や貴族で、各国の公立美術館に所蔵されている作品も少なくありませんが、作家たちが謙虚で人間性も優れていることが印象的でした」302枚として同じものが存在しない羽毛を自在に操り、幻想的な世界を築き上げる羽根細工職人。命同様に素材を尊重し、繊細な美しさを最大限に引き出すことを使命としている。20世紀初頭はパリを中心に繁栄していた羽根細工業だが、現在では衰退が危惧されている職業のひとつ。紙の表面に刻んだ凹凸と箔押し加工の金属的な輝きで、唯一無二の高級感を演出。多くの芸術家が仕事場を構えるパリ12区のヴィアデュック・デザールに位置する工房では、高級コスメティックブランドのパッケージ、ショーやパーティの招待状などの製作を行っている。
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