SIGNATURE2017年08_09月号
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折 革細工作家「的確な所作で、素材に新しい命を吹き込む。それが私の仕事です」セルジュ・アモルソしも「フランス人間国宝展」に出品するためのバッグの製作が行われている最中だった。同じデザインのバッグを、異なる素材を用いて9つ作る計画だという。すべて手作業なので、2つとして同じものは存在しないはずだが、アモルソ氏の手にかかれば、素材や色が異なる点を除いては、限りなく同一に近いバッグが仕上がるはずだ。 「これ見よがしの高級感や、製作者の苦労がにじみ出ているような作品には興味がありません。無駄がなく、ピュアな趣に仕上げるのが私流です」 寸分の狂いもないステッチ、端正なフォルム、遊び心のある色使いが、アモルソ氏の作品に共通するプロパティ。熟練工にふさわしいハイレベルな技の確立には、高級メゾンでの経験が役に立っているという。 「エルメス本店の上階にあるアトリエで過ごした7年間は、とても有意義でした。ただし時が経つにつれ、新しいことに挑戦したいという欲望が膨れ上がり、独立を決意しました」 現在は3人のアシスタントとともに、世界各国のセレブリティや王族などからの依頼に応えている。生産できる革製品の数は、年間で約100個。一点に、丸2年の歳月をかけることも。 「お客様に優越感を味わっていただくためにも稀少性は不可欠です。私自身も、すべてのクリエーションをコントロールしておきたいので、100というのは理にかなう個数です。今後も増やす予定はありません」Maroquinier DesignerSerge Amoruso38シンプルだからこそ、職人技の素晴らしさが際立つバッグ。外はシックだが、内には鮮やかな黄色のポケットが。20歳の時に初めて来日して以来の大の日本通で、合気道のマスターでもあるアモルソ氏。精神と体の動きをリンクさせる点や、的確な一撃を下さなければならないという点で、合気道と革の扱いには共通点があるそう。右下は、折り紙の原理を応用した小銭入れ。ボタンやファスナーを利用することなく、革の折り目だけで開閉するトリックが利いた作品。家具職人の父の影響で、手に職をつけることを志し、革細工職人に。エルメスでの7年の経験の後に独立。牛、羊、クロコダイル、エイなどの様々な革を自在に扱う、卓越した技術の保有者。2010年に人間国宝に選出。

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