SIGNATURE2017年08_09月号
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対談細尾12代目文化財保存修復家京都・ヴィラ九条山日本とフランスが誇る伝統工芸の未来をつなぐプラットホーム細尾真孝×ヴィオレーヌ・ブレーズ日仏の伝統工芸における、新たな関係性を築く第一歩となる「フランス人間国宝展」。伝統産業の集積地・京都には、その一助となる文化施設『ヴィラ九条山』がある。国を超えて工芸の未来が生まれる場所で、二人の文化の担い手の出会いを追いかけた。写真・福森クニヒロ細尾 『ヴィラ九条山』の話は、知人から聞き、一度訪ねてみたい場所でした。ブレーズ この施設はフランス政府公式機関のフランス文化センター、アンスティチュ・フランセ日本のひとつで、アジアで唯一となるフランスのアーティスト・イン・レジデンスなんです。細尾 どんな方が利用できるのですか?ブレーズ 現代美術からダンス、人文社会科学まで、あらゆる分野のフランスのクリエイターが対象です。自分のプロジェクトを応募して認められれば、2〜6か月の滞在が認められます。メゾネットタイプのスタジオの一室を自室として、研究・居住ができ、滞在中は滞在費も支給されるので、家族連れの人もいます。細尾 ブレーズさんは、テキスタイルの文化財修復家と伺いましたが、アーティスト以外の方も対象なのでしょうか。ブレーズ 私のプロジェクトは、印金の技術を現代に復元させることです。2014年に、ベタンクールシュエーラー財団の支援のもと、『ヴィラ九条山』がリニューアルをした際、工芸の分野が加わったため、応募できたのです。細尾 印金といえば、薄手の絹地に文様を彫った型紙を当て、漆や膠を接着剤にして金箔を貼り付け、文様を布に写す技法だと思いますが、具体的にどのような研究をされているかを教えてください。ブレーズ 現在、印金は世界中で誰もその技法を再現できる人がいません。これいんきんにかわだけ美しいものを、自分の手で現代に甦らせることが私の課題です。文様を定着させるためには接着剤が鍵となるため、今は膠とデンプン糊などのレシピを試行錯誤中。型も自分で起こします。実際に印金に触れたことがある方にお話を聞き、多くの可能性を模索しています。細尾 印金は、もともと装束に利用されていたものが、残念ながら廃れてしまったものですね。私の工房がある西陣には今でも引箔と言って、和紙に金や銀の箔をのせて細く切り、糸としてテキスタイルに織り込むという技法が残っています。ひきはくブレーズ ヨーロッパでは、織物に金箔を押すものを見たことがありません。印金は中国の南宋時代に一番盛んで、明時代に絶滅したと思われます。日本には名物裂として残っているようですね。細尾 とくに、引箔は和紙がなくてはできない技法なので、日本にしかないものだと思います。また、ジュエリーを着ける文化がなかった日本だからこそ、身分を差別化する目的でテキスタイルに宝飾品の要素を持たせる必要があり、発展したのかもしれませんね。茶道と同じで、平安中期に日本らしさの形を追求する流れから、テキスタイルの技法も日本独自のものになっていったのかもしれません。ところで、ブレーズさんが印金に出合ったのは、どんなきっかけだったのですか。ブレーズ 東京の会社で研修中に、練習をしているときに知りました。小さな生地の断片を裏張りする作業でしたが、今では誰も知らない技法が使われていると聞き、その神秘性に惹かれました。調べていくうちに、この技法を自分の手で復元し、様々な工芸作家に利用してもらいMasataka Hosoo40細尾さんは、海外用に新たな技法で表現した西陣のサンプルを収めた桐箱をお土産に持参。興味深く一枚一枚、見入っているブレーズさん。元禄年間創業、西陣織の老舗・細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後フィレンツェに留学し、2008年に細尾に入社。翌年より新規事業を担当し、革新的なファブリックで世界を魅了している。2012年10月より、京都の伝統工芸を担う6人の後継者ユニット「GO ON」始動。

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