SIGNATURE2017年08_09月号
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とができるのは、勿論、作品の運の良さもあるが、やはり一番は、その作品の真価を人々が認め、この作品を長く世の中に残したいと願うからだと、私は思っている。 鑑賞した人が、ひとつの作品に何かの価値を見つけるためには、その作品を一目見た時、こころを揺さぶられるものがあるからであろう。たとえ無名の画家の作品であっても、それは同じである。ではその感動はどこから来るのかと考えると、その作品を描いた時間(何百年前であっても)に創作する者が抱いていた感情、さらに言えば見ていたもの、見ようとしていたもの、探していたものが関わるのだと思う。 モランディの生きた時間には、大きな戦争があった。 第二次世界大戦である。当時、イタリアの工業部門で一、二の生産量を誇っていたボローニャに戦争の嵐の風が吹かないわけはなかった。 そこで私は足を止めた。__あれは何だろう? 市庁舎の壁に、何百という数の人の写真が掛けてあったのである。近づいてみると、それぞれの写真には名前も刻まれ、老人から幼い子供のものまであった。 私は通りすがりの女性に訊いた。 「この壁の写真は何ですか?」 「これは第二次大戦で犠牲になった人たちの写真です。この人たちはボローニャの誇りです」8  塔の手前を右に折れ、市庁舎にむかった。Bologna, ItalyNumber 105

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