築地の老舗料亭『新喜楽』の大広間に設えられた一日限りの高座。「料亭のお座敷で落語とお料理を楽しむ」というイベントは多くのキャンセル待ちが出るほどの人気企画となった。由緒正しき会席料理と供宴したのは、柳家花緑師匠の「生の落語」。この一期一会でお座敷に生まれたのは、江戸の時間と空気だった。 ダイナースクラブ落語江戸の街に生きる中村仲蔵が、お座敷に登場 料理のみならず落語の評論家としての顔ももつ山本益博氏。同氏を席亭に迎えて、「料亭のお座敷で落語とお料理を楽しむ」という趣向のイベントが開催された。場所は名料亭として名高い『新喜楽』である。72畳という大広間に設えられた一日限りの高座に柳家花緑師匠を迎え、選ばれた演目は『中村仲蔵』だ。中村仲蔵とは江戸時代中期に活躍した歌舞伎役者で、門閥外から一代で大名跡に出世。250年以上を経たいまも残る「斧定九郎の拵え」を考案した人物として知られている。山本益博(以下、益博):今回、師匠の『中村仲蔵』を初めて聴きましたが、実に素晴らしかった。その理由のひとつが演者の年齢にもあると感じました。中村仲蔵が斧定九郎の拵えを考案したのは彼が30歳の頃。歳が近い師匠が演じることで年齢相応のスピード感、臨場感がありました。幾人もの名人上手の『中村仲蔵』を聴いてきましたが、これほどまで若々しい仲蔵に出会えたのは初めてのこと。嬉しい体験でした。こしら柳家花緑(以下、花緑):ありがとうございます。先達の多くがどのシーンもたっぷり目に語っていますが、自分流にするにあたっては、できるだけ爽やかに演じようと心掛けているんです。仲蔵が悩んでいた時期はおそらく旧暦の7月ごろ。現代では8月に当たります。そんな季節の空ならば、抜けるように青かったはずですから。益博:なるほど。若い仲蔵が苦心して歩き回っている江戸の街は、そんなシーズンだったんですね。この噺のお稽古をつけてもらったのが五代目三遊亭圓楽師匠のお弟子さんである三遊亭竜楽師匠と伺っています。となれば三遊亭直系の噺ということができますが、オチを変えているんですね。花緑:ええ、柳家らしくまとめてみましたが、いかがでしたか?益博:オリジナリティがあって、しかも噺全体にかかる良いオチでした。また落語が終わればお食事タイムという、今回のイベントのタイミングにもピッタリでしたし(笑)。花緑:仲蔵が定九郎老舗料亭に吹いた江戸の風EVENT REPORT2017年6月10日開催72やなぎや かろく|1971年、東京生まれ。師匠は祖父で人間国宝の五代目柳家小さん。スピード感あふれる歯切れのよい語り口が人気で、落語の新しい未来を切り拓く旗手のひとり。www.me-her.co.jp/profile/karoku/72畳もの大広間を三十数名で貸し切った贅沢なお座敷落語。息づかいが聞こえる距離で聴く花緑師匠の話芸。演目は大ネタ「中村仲蔵」。柳家花緑Karoku Yanagiya
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