SIGNATURE2017年10月号
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も同じ道具では申し訳ない。筒井:15人の客に懐石をお出しするというのは大変なことだと思いますね。芝田:茶事では基本的に亭主がすべて持ち出して給仕するので、やっている時は一所懸命です。終わったらホッとします。でも、最後にお見送りした時に、喜んでくださるお姿を見ると疲れも飛びます。筒井先生の濃茶席は、今回も素晴らしいお道具をお持ちいただいていますね。筒井:茶会の頃、この哲学の道の辺りは紅葉が見頃でしょう。床の掛け物は西行の「五首切」で、紅葉の和歌が記されたもの。茶杓は狩野探幽の茶杓。ほかにはない貴重な一杓で、今回初めて使います。芝田:先ほど茶入を拝見しましたが。筒井:あれは「淀」という銘のある秋元子爵家伝来の瀬戸の丸壺茶入なんですが、仕覆(茶入を包む特製の布袋)が3つあるだけではなく、その仕覆の中に木製の型が入っているのです。芝田:木型とは珍しいですね。筒井:大切な道具だったのでしょうね、茶入とそっくり同じに写して。大名たちはこの木型でお稽古したのかな。本来、お茶は男のものなんです。芝田:よくわかります。私自身が実際に体験することで面白さを実感しました。その感覚をうまく言葉にするのはとても難しいです。筒井:私は、仕事で忙しい人、集中しないといけない人ほど、お茶をするとしふくいいと思います。お茶は集中力を養い、一方でリラックス効果もあるから。たとえば、お医者さん、特に外科医の方などは手術の際、とても集中する。リラックスする時間も必要だろうけれど、そのいずれにもお茶はとてもいい。芝田:集中とリラックスが、茶の湯の中にあるのですね。筒井:よいストレス解消法でもあります。お茶は点前をすることで集中力を養える世界ですよ、とわかってもらえるといいのですが。お茶は男性がハマる要素にあふれているのに、作法がわからない、正座が辛い、という目先のことが障害になって、真のお茶の豊かさに気づいてもらえないのが残念です。芝田:私も同感です。お茶って、最初てまえは女性が多くやってらっしゃるイメージがあって、男一人で出かけてゆくということ自体、敷居が高いのです。しかし、実際に行ってみると道具が面白かったり、道具を通して和やかな会話もある。茶碗だけではなく、茶事になると懐石の器、向付とか、酒器とか、いろんな道具が出てくるわけです。筒井:お茶をしなくても、酒器を集める男性はいる。ふだんの趣味がそのまま入るような懐の深い部分もお茶にはあります。総合芸術なので、もちろん様々な知識が必要ですし、礼儀作法など大変な部分もあるのだけれど、愉しみは数倍。まずはぜひ、この茶会に来ていただいて、その醍醐味を味わってほしいですね。34茶事では亭主みずからが、客に料理を給仕するのも大きな特徴。日本のもてなしの心がここにも光る。茶の湯の空間を表す言葉に、「市中の山居」という表現が使われる。茶室の外に広がる茶庭は、まさに自然の延長で心を穏やかにする佇まいを旨としている。かつては日本家屋の大切な要素であったが、日常空間では珍しくなりつつある床の間。茶室には必ず床の間があり、そこに掛け物や花、香合などが飾られている。

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