SIGNATURE2017年10月号
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茶事ではその日の道具組同様、亭主が心を尽くす、菓子が客に呈される。『叶匠壽庵』の会長夫人・芝田良子さんに茶席の菓子の魅力と、ご自身の茶席での忘れがたい思い出をお話しいただいた。茶の湯菓子の愉しみ 茶の湯菓子の魅力はその日の茶会の趣旨や道具組に合わせて、亭主の思いを菓子にも込められることだと思います。四季折々の味わいを一つの菓子に凝縮し、五感で楽しんでいただけるのが大きな特徴です。 そのためにも私どもの菓子は、何よりまず原料にこだわっています。季節ごとに素材を吟味し、その味や特徴を生かすことを大切にします。うちには自家農場もありますが、素材によってはそれぞれの産地で作っていただいています。本当においしい原料を求めていると、どこか一か所にこだわるのではなく、時に応じて色々な産地のものを使うことになり、この栗きんとんの栗にも、丹波産や熊本産などを使います。 ある時、亡くなりました会長が、ある方の茶事に誘われまして一緒に出かけたことがありました。懐石の後に大きなおいしいきんとんが出てきまして、口に入れて思わず「おいしいですね、どちらのですか?」とお尋ねしたところ、ご亭主が注文先を明かしてくださったのが、当店の名でした。恥ずかしいお話で、その時は周りの方からも笑われましたが、別席の客の一人が「もう一つお代わり」とおっしゃったらしいんです。そういった話を聞くとうれしいですし、和気藹々とした一座に私どもの菓子をお使いいただけたこと、今でも忘れがたく覚えています。 茶会では濃茶席の主菓子のほかに、 36叶 匠壽庵会長夫人Column『叶 匠壽庵』の会長、故・芝田清邦氏夫人。「農工ひとつ」の思想で原材料からこだわる和菓子作りや茶の湯菓子の普及にも尽力した清邦氏を支える一方で、茶の湯の世界も共に楽しみ親しんでこられた。芝田会長夫人が茶会に行く際、携帯されている道具一揃。茶扇子(中央)、古帛紗(左上)、帛紗(左下)、懐紙と楊枝(右下)などを、帛紗挟み(右上)に入れて。芝田良子さん

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