SIGNATURE2017年10月号
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瓢亭と茶の湯の心瓢亭 主人髙橋義弘さん いるが、いずれも素材や季節感を見極めることにより極上の味に仕立て上げている。お気付きかもしれないが、出汁は「鮪節」。これは、先代の髙橋英一さんが鰹の渋みや酸味に疑問を持ったことから「鮪節」に到達した。鮪節の出汁は飲み口が穏やかだと当代の義弘さんは言うが、彼は、先代の味を引き継ぎつつ、その時代と嗜好を取り入れることにも挑戦をしている。その成果が「トマト醤油」である。このトマト醤油は、土佐醤油と共に向付に添えて、並べて出されている。右にトマト醤油、左に土佐醤油と、お膳の上で位置が決まっているほど、すっかり『瓢亭』の新しい顔となった。ちなみに『瓢亭』の向付は、毎朝活け締めした明石(兵庫県)の雌の鯛と決まっている。それ以外の鯛は仕入れないのが『瓢亭』のプライドだ。その鯛を手際よくへぎ造りにして、選び抜かれた名品の器に盛る。半透明の薄紅色した鯛のへぎ造りは華やかさと上品さがあり、見るだけで心が躍る。鯛の味に塩味の効いた土佐醤油と軽やかな酸味の効いたトマト醤油が、鯛の味を引き立てる。お好みでぜひご賞味いただきたい逸品。まさに「百聞は一見に如かず」だ。 かの有名な千利休の和歌の一つに、「規矩作法守りつくして破るとも離るゝとても本を忘るな」(「道」の修行における順序段階での教え)があるが、むこうづけ39450年続く『瓢亭』15代目。髙橋英一さんから後を継いだ義弘さんもその歴史と味を継承し、新たな味の研究にも意欲的。向付-明石産鯛へぎ造り。品のよい紅葉色はお膳が華やぐ一品。トマト醤油に隠し味の柚子油が3滴。器はいずれも永楽妙全造。

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