SIGNATURE2017年10月号
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『瓢亭』の極上出汁と椀物の世界まさに守破離の世界だ。そして、それは『瓢亭』としての「道」の姿勢を感じる言葉でもある。 「懐石料理」とは、茶事の懐石(茶懐石)を源流とするもの。「茶懐石」とは、一汁三菜を基礎とし、汁・向付・煮物・焼物の形となり、茶の湯の作法に準じている。これに加えて、強肴、吸物と八寸が出されるが、招く亭主(主人)の趣向により、料理も器も厳選されることに特徴がある。『瓢亭』では、この「茶懐石」の精神を基本としつつ、本格的な茶事でなくてもより多くの人が愉しめる「懐石料理」を提供している。押し付けではないおもてなしの心、さりげない気配りやお客様を思う心が『瓢亭』には息づいているのだ。 料亭で椀物が出た時に困った経験があるという人は少なくない。義弘さんしゅはりからのアドバイスとして「お椀の出汁は一番のご馳走です。おいしい味わい方は、まずは蓋を開け、椀の中の景色、そして香りを楽しんでからいただくことを、難しく考えずに挑戦してみてください。ご自身できれいな食べ方を研究することで、周囲の方も気持ちよく食事ができると思います。おいしい食べ方を知っていただきたいですね」。 さらに、「お箸やお椀の扱い方、お出汁のすすり方や椀種の食べ方など、おいしく食べることを研究することで、よりお椀の世界観が広がります」。実際に厨房で料理をしているご本人から聞く話は、まさに〝活きた教養〞である。また、義弘さんは自身の椀物への思いを次のように語った。「もっとも季節を感じるご馳走のひとつで、作り手としてとても気を使う一品です。お椀の中に日本料理の世界が凝縮されていると思います」。 『瓢亭』の出汁を一口すすれば、澄んだ出汁の味と芳しい香りが口一杯に広がり、穏やかな気持ちになる。グッとお腹の底から湧き上がる喜び、まさに「五臓六腑に染みわたる」瞬間だ。飲み終えたころには、京都弁で「ほっこりする」という言葉が脳裏に浮かぶ。これは「ほっとする」という意味だが、純粋に今日、この日にこの席に饗されることに心から感謝をしたい気持ちに自然となる。これは一期一会の世界だ。義弘さんからは、「ダイナースクラブの会食会では、通常体験ができない出汁の実演を一夜限りでお見せします。茶の湯に通じる要素をぜひお楽しみいただければと思います」。今からその時が待ち遠しい。かぐわいちごいちえ40住所:京都市左京区南禅寺草川町35電話:075-771-4116http://hyotei.co.jp/上:血合い抜きの鮪節。『瓢亭』の味を支えている。中:3~4年以上寝かした利尻昆布の大ひねを使う。下:澄んだトマト醤油の開発は、15代目の偉業だ。最初はトマトの香りと旨みを、次に咀嚼すると鯛の旨みが口の中に広がる。           瓢亭(本館)

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