SIGNATURE2017年10月号
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三つ子の胃袋も、百までキャッサバ餅「ガリ」マンゴーのアフリカン恵み ガボン共和国というと、何が思い浮かぶだろうか? 私自身は、医学者兼音楽家のアルベルト・シュヴァイツァー博士ぐらいしか連想できなかった。実は、赤道が通るガボンは、「緑の国」と呼ばれる豊かな国。多様性あふれる動植物はもちろん、マリンスポーツが楽しめる、バカンスに最適な国のひとつだという。 そんなガボンで、人にも自然にも優しく、親しまれている植物が、アフリカンマンゴー(アフリカマンゴノキ、つ高木で、生い茂る葉がさわやかな緑陰を落としてくれる一方、根は深く張り、土地の砂漠化を防いでくれるという。アフリカ伝統医学によれば、タンニンを含む葉に消毒・止血の力があり、樹皮を煎じて飲めば下痢・腹痛に効くという。果実は動物たちが食べてしまうようだが、ジャムなどにもなるらしい。でも、何よりも興味深いのは、その果実の中の種の「仁」の部分だ。「ロディカ」と呼ばれるその「仁」こそ、ガボンの台所に欠かせない食材だ。このロディカには、ダイエットやメタボに効くとされる抗肥満作用成分があるということで、ここ数年、欧米や日本などで騒がれている。エッセンス入りのサプリメントがあちこちで販売されているものの、当のガボン人たちはその「痩せ効果」をあまり信じていない様子である(劇的に効果があるのならば、ガボン人は全員スリムなはず?)。 このロディカ、種を割ってていねいに取り出され、低温圧搾され、食用油、あるいは、化粧用油になる。また、黄金色に焼いて細かく粉砕し、型に入れて固められる。固められたロディカは茶色で、通称「チョコレート」と呼ばれているが、香りは甘くない。むしろ、日本の昆布や鰹の出汁の香りに似ていて、芳しい。「チョコレート」は、必要な時におろし金で削り、スープIrvngia Gabonensisだし)だ。50メートルにも育じんかぐわ文・にむら じゅんこにむら じゅんこ|ライター、翻訳家、比較文学研究者、1児の母。長年のフランス暮らし、モロッコ通い、上海暮らしなどを経て、現在、鹿児島大学講師。著書に『クスクスの謎』(平凡社新書)、近著には『海賊史観からみた世界史の再構築――交易と情報流通の現在を問い直す』(稲賀繁美編、思文閣出版、共著)などがある。や料理の味付けに使用される。 首都のリーブルヴィルに住むナンシーちゃん(2歳1か月)も、小さいながらに鶏肉のロディカソースが好物。添えられていた主食は、「ガリ」と呼ばれるキャッサバ芋由来の餅(写真6)と、「フフ」と呼ばれる食用バナナ(プランラン)をついた餅(写真4)だ。これらを手でちぎって、ソースにつけて食べるのが現地の流儀。モチモチ、プヨプヨとした触感がおもしろいので、ナンシーちゃんも喜んでガリやフフを手にとる。カトラリーを使うより、触覚も使って食べたほうが美味しいのだ。米の餅ほどの噛み切りにくさと粘着力はないが、お母さんのシメーヌさんは、喉に詰まらせないようにナンシーちゃんから目を離さない。 「ガリ」は餅の名前であるが、粉の名前でもある。水で晒したキャッサバ芋に重石を載せて水分を締め出しながら1〜2日間発酵させ、長期保存を可能にした粉だ。発酵の過程でできる独特の軽い酸味は、まったりとしたロディカのソースに絶妙にマッチする。 ナンシーちゃんは、このガリの粉と砂糖をミルクに入れて煮たキャッサバ粥を離乳食として食べながら育った。ガボンの一般的な「離乳粥」なのだそうだ。L’Odikia46

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