エ ペルネのシャンパーニュ大通りに居を構えるペリエジュエの地下セラーから、じつに美しいボトルが見つかった。白いアネモネの絵が焼きつけられたそれは、アール・ヌーヴォーの巨匠エミール・ガレが、メゾンの求めに応じて1902年に作製したもの。それからラーマスターであったアンドレ・バヴレは、このボトルにふさわしいシャンパーニュを醸造。5年後の69年、デューク・エリントンの70歳の誕生日を祝うにあたり、パリのマキシムでお披露目されたそのシャンパーニュこそ、ガレの活躍したフランス華やかなりし時代にちなみ命名された「ベルエポック」である。 普仏戦争の痛手から立ち直った19世紀末から第一次世界大戦が勃発する1914年までの間、フランスはつかの間の平和と繁栄を手に入れた。パリ万国博覧会が開催され、ドビュッシーが「月の光」を作曲し、マルセル・プルーストは『失われた時を求めて』の構想を練っていた。芸術分野ではガレやドーム兄弟のナンシー派、パリ・メトロの入口をデザインしたエクトール・ギマールら、自然をモチーフとし自由曲線を用いて表現するアール・ヌーヴォーが隆盛を極めた。後に人々はこの時代を振り返り、美しき時代、ベル・エポックと懐かしんだのだ。 シャンパーニュ大通りを挟み、メゾンの本社と向き合う建物は、創業者のピエール・ニコラ・ペリエと妻のアデル・ジュエ夫妻が実際に居住していた邸宅。それをメゾンの賓客を迎えるゲストハウスMaison Perrier-Jouët Celebrates the Reopening of its Historic HomeText by Tadayuki YANAGI文・柳 忠之62年の歳月を経た1964年、当時のセ68とど1811年に創立された老舗シャンパーニュメゾンのペリエ ジュエ。アール・ヌーヴォーの作品に彩られたそのゲストハウスが、往時のイメージを今に留めつつ、美しくリニューアルされた。再び開く、ベル・エポックの花
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