SIGNATURE2017年12月号
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第1章中国で一番お酢が好き!天下第一酢の都 山西省で酢といえば、問答無用で黒酢のことだ。なぜならここでは黒酢が定番。オギャーと生まれたその日から、山西人が目にする酢は黒い。省都・太原市のスーパーマーケットに行けば、ポリ容器にメーカー各社の黒酢が並び、レストランの卓上には醤油ではなく黒酢がある。移動がてら、タクシーの運転手たちに「家でどこの酢を使っていますか?」と片っ端から尋ねてみたところ、皆、酢のメーカーを即答したことには驚いた。 かつて、華北五省の主要都市で酢の消費量を調査したところ、1人あたり年間18斤(9000g)という圧倒的な量でトップを飾ったのは、山西省太原市だったという有名な話がある。それもそのはず、山西省の黒酢は「天下第一酢」と称され、中国の酢のルーツがあると言われているのだ。ある学術資料によれば、山西省にある酢の醸造所は1000を超すとある。さまざまな分野で工業化と大規模化が進む中国だが、太原市出身の30〜40歳代に話を聞けば、祖母が家で酢を造っていたという人も少なくない。そう、この地方には、クラフトヴィネガーと言える、昔ながらの製法で酢を造るところが残っているのだ。 ならば、最高にして最古の技術が残るところを訪ねたい――。そんな想いで訪れたのが、「東湖」「美和居」のブランドを擁する、山西老陳醋集団有限公司だ。同社は1368年に創業し、山西省独自の黒酢醸造法を確立した「美和居」にルーツを持つ老舗企業。その製法は国家級非物質文化遺産に指定されている。太原市内にある酢の博物館『東湖醋園』と、酢の生産拠点となる、晋中市の『老西醋博園』を案内していただいた。麺にかける黒酢はうまい。諸説あるが、小麦は酸性、黒酢はアルカリ性の食品で、一緒に食べると体内で中和され、ちょうどいい塩梅になるという。しからば、とびきりおいしい黒酢をかけたい。黒酢の都・太原市に、こだわりの黒酢を求める旅にでた。だいきょく山西省の黒酢は個体発酵が特徴だ。高粱で度数の高い酒を造り、乾燥麹にも似た「大曲」を大量に混ぜ、小麦ふすまと粟の籾殻を混ぜ合わせると、発酵によってほかほかと砂湯のような温かさが生じてくる。32

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