山西省は麺天国だ。オレキエッテのような猫耳朶(マオアードゥオ)、高粱と小麦の麺をよじった包皮(バオピー)、滑らかな食感がたまらない剔尖(ティージェン)、ロープのような一根麺(イーゲンミィェン)など、数え上げればキリがない。なぜここまで麺作りが発達したのだろう。太原市内で麺店を営む馬利軍さんに尋ねてみると、これも酢と同様、気候風土の影響は大きいらしい。小麦が育つ遥か前から、山西人は燕麦、蕎麦、高粱、ジャガイモなどの穀類を育て、粘りの出ない食材でひたすら麺を作ってきたのだ。手先を動かすことを厭わない気質は、山西人のDNAといっていい。 そんな山西省の郷土麺のひとつに、莜麺栲栳栳(ヨウミェンカオラオラオ)がある。その歴史は遡ること随の時代、およそ1400年も前のこと。莜麺とは燕麦の一種で、農家で使う籠に似ていることからその名がついた。親指の爪ほどの分量の生地を手に取り、手のひらで滑らすように台に押しつけ、薄く伸ばした生地をくるりと人差し指に巻きつければ、太いマカロニのような麺ができあがる。 素人には難しそうに見えるものの、『晋綏家宴』の麺点師・劉潤連さんは、「子供のころから母親を手伝っていたから難しくないのよ」と笑う。中国では麺作りを「和面(フーミィエン)」というが、粉が生地として立体化し、麺に落ち着くさまは、まさに「和」という表現がしっくりくる。聞けばこの店、馬さんが故郷の興県蔡家崖村の料理を広めようと、昨年太原に開いたという。つけだれは、トマト卵炒めをはじめ3種類。しかし「黒酢と辣醤で食べるのが最高だよ!」と、馬さんは断言する。黒酢はもちろん、故郷から取り寄せた手づくりの品。蒸したての素朴な麺を味わいながら、「胃知郷愁(胃袋でふるさとを想う)」と掲げられた看板を見て、まだ見ぬ彼らの故郷に思いを馳せた。右と右ページ左下:1本の麺をとぐろのように巻いておく一根麺。コシが比較的強く、滑らかな口当たりが楽しめる。左:蕎麦粉を原料にした灌腸(グァンチャン)は黒酢と辣油のさっぱりとした和えもの。前菜として人気がある。39
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