友人のモロッコ人に、子供のころに好きだった料理は何かと尋ねたら、「白ハリラ」という答えが返ってきた。食べたことがないと言うと、「君が知らないのも無理はない。レストランでは出ない家庭のスープだから。ラマダン明けや、風邪の時、おやつとしてもよくお母さんが作ってくれた。デーツと一緒に食べたな。幼児期の幸せな味だよ」と教えてくれた。 「ハリラ」とはいえども、トマトなどの野菜が入ったあのオレンジ色のハリラスープとは違い、ミルク(牛や羊など)が入っており、見た目はミルク粥。家庭のスープで、特に妊婦や産後の女性の授乳期にも推奨されているという。 家庭によって、地方によって、白ハリラの具は異なる。みじん切りしたタマネギをベースに、細かく砕いた大麦、カラス麦、ふすまなどを軟らかく煮る家もあれば、「スミダ」と呼ばれる極小サイズのクスクスを入れる家もあり、また、小麦粉でとろみをつけるだけの家もある。離乳期の赤ちゃんからお年寄りまで、家族皆で食べることができる体に優しいシンプルなスープだ。 マラケシュの旧市街に住むソフィアちゃん(12か月)も、家族と一緒に食べる白ハリラが好き。モロッコでは、ここ最近、ハラール*の瓶詰離乳食が発売されて人気を博しているものの、赤ちゃんを含めて皆で同じものを食べるという習慣が根強く残っているように感じられる。以前、この連載で、家族で囲んだクスクスを、赤ちゃんも一緒に、月齢に応じて││たとえば野菜だけをその場で小さく切ってあげるなどして││食べているという事情を書いた。離乳食らしい離乳食がモロッコに存在しないのは、共食という習慣にその理由があるのかもしれない。 三つ子の胃袋百までも、231 AmlouHarira &文・にむらじゅんこ44家族で食べる白いスープ
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