SIGNATURE2017年12月号
4/82

 朝からひどく暑い日であった。数日前からヨーロッパは猛暑になっていた。 初めて訪れるヴァチカンの通りを車窓から眺めると、まるで大きな行列が行進するために造られたように道幅がひろかった。 サン・ピエトロ寺院のドームが見えた。 まずは今回の取材目的であるヴァチカン美術館にあるミケランジェロの初期の素晴らしい作品である『サン・ピエトロのピエタ』を鑑賞しなくてはならない。ルネサンスの時代、彗星のごとくあらわれたミケランジェロの出世作で、今も鑑賞者に感銘を与える彫刻作品だ。 大きなガラスケースにおさめられているものの、ルネサンス期のみならず、世界で一番若くて美しいマリアが両膝の上の我が子、イエスの遺骸を見つめている。完成直後、マリアが若過ぎるとかイエスの身体が筋肉質に作られ違和感があると注文主(教会)から文句が出たという。しかしこの像を見た大衆はこぞって称讃した。それはそうだ。誰だって美しい方が良いに決っている。 像を見学した後は、長い廊下を歩いてシスティーナ礼拝堂へむかう。その礼拝堂の天井と壁面に同じミケランジェロの大作があるからだ。狭くて長い廊下を千人以上の参拝者、見学者と歩くのだが、クーラーなどなく古い建物は立っているだけで、真夏の暑さと多勢の人いきれで、たちまち衣服の下は汗まみれになった。倒れそうだった。  かつて迫害を受けたキリスト教徒に比べれば、こんなものは……。Spiral staircase at the Vatican Museum,Rome  写真・宮澤正明10

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る