大学ラグビーの魅力は一発勝負の面白さに尽きます。じつは、大学ラグビーを観ると、スポーツ観が広がります。これは案外みなさんも気づいていないのではないでしょうか。上位のトップリーグよりも未熟なのに、なぜ面白いのか? それは格闘的な要素があり、技術が拙くても一生懸命ぶつかっていくからです。僕はいろいろなスポーツを取材してきましたが、ラグビーとボクシングが面白さの双璧です。ボクシングが必ずしも世界タイトルマッチが面白いわけでなく、4回戦同士のほうが面白かったりします。大学ラグビーもそれと一緒。どちらも身体の接触があり、切実さがあります。切実なもの同士の戦いは周りから観ても面白い。ですから、戦前から大学ラグビーは神宮の競技場を満員にしてきたのです。今は、全国選手権もありますが、以前は対抗戦の一発勝負でした。つまり、早明戦の1試合のためだけに1年を懸けて練習をしてきたわけです。そういう勝負は、勝っても負けても「心が大きく動く」。それが観ている人の心も動かすのではないでしょうか。 さらに「負けても次がある」という精神では、人間はあまり成長しません。教育的見地や一般的なスポーツ論では挽回のチャンスを与えるべきという意見もありますが、それは半分しか正しくありません。一発勝負ゆえの成長があると思うのです。大学ラグビーという、ある意味で閉じたスポーツに懸けることは、その空間の圧が高まります。青春の一時期にたいへんいい影響を選手に及ぼすと思います。 今回観戦(10月14日)した、対抗戦の早稲田大学対筑波大学を例にお話をしましょう。開幕2連勝の早稲田大学に対して、筑波大学は開幕2連敗で、この試合に負けると今シーズンが厳しくなります。ですから、必死に勝負を懸けてきていました。序盤は早稲田がやや押していましたが、そこをしのいだ筑波が先制トライをあげました。そこまでは計算どおりだったでしょう。ところが、早稲田にはスクラムハーフの齋藤直人という素晴らしい選手がいました。試合全体を通して、彼だけが突出していて、その分だけ早稲田のチーム力が上でした。結局、目を覚ました彼の働きにより、早稲田は一気に逆転して、前半を終えました。 後がない筑波も気合を入れ直したようですが、後半早々に早稲田が連続トライをあげ、ここで勝負あったかに見えました。ところが、大学ラグビーの面白さはここにもつたなシーズンを通して、一発勝負に懸ける成長の軌跡を見守る未熟で拙いながらも、一発勝負の面白さ。そのリセットなき閉じた空間の〝圧〞にこそ、大学ラグビーの可能性がある702017年10月14日、秩父宮ラグビー場、「関東大学ラグビー対抗戦」筑波大学vs早稲田大学戦。ゲームメイクする早稲田大SH齋藤直人(中央)。2017年10月14日、秩父宮ラグビー場、「関東大学ラグビー対抗戦」筑波大学vs早稲田大学戦。背番号7は筑波大キャプテンのFL占部航典。2017年10月14日、秩父宮ラグビー場、「関東大学ラグビー対抗戦」青山学院大学vs帝京大学戦。コンバージョンを蹴る帝京大WTB竹山晃暉。竹山はこの試合で3トライ12ゴールで39得点を叩き出した。ふじしま だい|1961年東京都生まれ。秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。卒業後は雑誌記者、スポーツ紙記者を経て独立。スポーツライターとして精力的に活動するかたわら、国立高校や早稲田大学のラグビー部のコーチも務めてきた。現在も、高校ラガーマンの進路相談に乗るなど、ラグビー界の裾野を広げる活動も続けている。著書に『人類のためだ。』『楕円の流儀』『知と熱 日本ラグビーの変革者・大西鐵之祐』などがある。
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