SIGNATURE 2018 1&2月号
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凍った川でスケートや遊びに興ずる子どもたちと、岸辺に仕掛けられた鳥罠が描かれたピーテル・ブリューゲル1世の《鳥罠のある冬景色》は、100点以上ものバージョンが知られる。画面手前の氷の上には穴が見え、氷上の人々と罠の餌食となる鳥たちが同じ運命にあることが、暗示されている。ヤン・ブリューゲル1世による素描《スケートをする人のいる冬の川の風景》。反対の面には同じく茶色のインクで《鳥罠》の模写が描かれている。1595~1600年頃 20.6×32.3cm Private Collection, Switzerlandヴィロン城から望む川面。庭園にはピーテル1世の《鳥罠》の複製画のパネルが掲げられている。デイルベークまではブリュッセルから電車で約1時間。《鳥罠》の  冬景色ている。「ブリューゲルは、飲み、食い、踊り、跳ね、求愛し、悪ふざけをする農民たちの姿を楽しんだ」。 その頃、彼がスケッチをして歩いたと考えられているのが、ブリュッセル郊外に広がる美しい田園地帯「パヨッテンラント(〝藁ぶき小屋が集まった土地〞の造語)」である。ピーテル1世は、そこに点在する景色をさまざまに組み合わせては、彼の農民風俗画に描き込んだ。たとえば、労働する農民たちの姿を季節ごとに描いた連作の1枚で、夏の麦の収穫期の様子を表した《穀物の収穫》。手前には、仕事の合間に休憩する農民たちの姿が描かれ、その向こうには豊かな田園地帯が広がっている。この牧歌的な風景は、ガースベーク城からの眺望によく似ている。 また凍った川の上で人々がスケートや独楽回しに興じる《鳥罠のある冬景色》の風景も、現在デイルベーク市役所となっているヴィロン城の公園内に見ることができる。氷が解ければ冷たい水に落ちてしまう人間は、しょせんは鳥罠にかかる鳥のようなもの、という教訓を秘めた本作は、当時から極めて人気が高く、息子のピーテル2世(1564〜1637/38年)らによって、100点以上もの模倣作がつくられた。そこに描かれた川は、現在も冬になると凍ることがあり、実際にスケートもできるという。 ブリューゲルが愛した、フランダースの原風景「パヨッテンラント」。この田園地帯には、今も450年前と変わらぬ時が流れている。     (木谷)ピーテル・ブリューゲル2世1601年 油彩・板 37.5×56.6cm Private Collection, Luxembourg*「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」出品作*「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」出品作《鳥罠》Gemeenteplein 1, Dilbeek, Belgiumhttps://www.dilbeek.beKasteel de Vironヴィロン城(現・デイルベーク市役所)BruegelPajottenlandこま31

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