SIGNATURE 2018 1&2月号
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中世の料理を再現した食卓。手前がローデベーテン(ビーツ=赤カブ)スープ。奥の皿はバウリング(豚の血入りブラックソーセージ)、ウォルスト(ソーセージ)、フリカンドン(フランダース地方のミートローフ)にライ麦のパン。飲み物は主にビール。当時フォークはまだ一般的ではなく、スプーンとナイフのみ。今に生きる素朴な味わい村の風俗を描いたピーテル1世の作品に数多く登場する食のシーン……《農民の婚宴》では、壺から酒が注がれ、平皿に載せたスープやお粥がふるまわれる。《穀物の収穫》では、木陰で休憩する人びとがパンを切り、ボウルによそった白い粥をすすっている……。中世の農民のレシピを再現したデイルベークの美術史家、マハテルド・デ・スクライファーさんが語る。 「16世紀は大航海時代で、香辛料によって食材の保存が利くようになり、食事のバリエーションが増えましたが、それを享受できたのは富裕層だけでした。農民の食生活は一食一品で一日2食という質素なまま。主食はパンかミルク粥で、芋が登場するのは18世紀半ば以降のことです。調理法は焼くか、煮るか、蒸すか。食材は豆、キャベツ、カブ、ネギなど。肉は自分たちで解体した豚。頭部から足まですべて食しました。魚は自分で獲ったものか、塩漬けや乾物でしたが、農民はハーリング(にしん)かムール貝ぐらいしか買えませんでした。一方、富裕層は牛肉や、ウサギや鹿などのジビエから、タラ、ヒラメ、牡蠣などの貝類、ザリガニやロブスターなどを味わっていたのです。 飲み物は、不衛生な水や牛乳ではなくビールが中心で、ワインは富裕層の飲み物でした。甘みは砂糖ではなく蜂蜜や葡萄の果汁。卵や鶏は、当時の農民にとって珍しいものでした」 懐かしさを感じる一汁一菜の素朴な味には、数百年間、連綿と受け継がれてきた智慧が隠されている。   (鈴木)ブリューゲルの食卓BruegelMeal of the Middle Ages農34

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