SIGNATURE 2018 1&2月号
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オンタリオ湖に浮かぶ冬のアマースト島にはユキホオジロや白フクロウをはじめ、渡来する多くの野鳥を見ることができる。カナダにおける重要野鳥生息地(IBA)に指定され、多くのバーダー(バードウォッチャー)が足を運ぶ。PECには、およそ50ものワイナリーが点在する。試飲をとおして好みのワインに出合え、その場で購入できるワイナリー巡りが人気。もちろん、地の利を活かしたレストランも軒を連ねる。地域が定めた食を巡るルート「テイスト・トレイル」の表示に従ってドライブすれば、PECの食やワインの魅力をたっぷり楽しめる。これには美食家たちの頬もゆるむことだろう。 そんな美食の地に、冬の訪れとともに毎年北極圏から飛来してくるのが、「スノーウィーオウル」と呼ばれる白フクロウだ。通常はカナダの北極圏に生息しているが、特に狩りの未熟な若鳥は、冬季は餌の捕獲が難しくなることから、より餌が豊富な南部へ移動すると考えられている。PECは一帯に広がる牧草地帯や穀物畑などの休耕地が、北極圏の大平原に似ていること、また餌となるレミングという野ネズミが多く生息していることなどが、白フクロウにとって好都合な越冬地のひとつとなっている。特に沖合に浮かぶアマースト島は別名「フクロウの島」とも呼ばれ、毎年10羽前後の白フクロウが飛来する島として知られている。 カーフェリーに乗ること約20分。冬のアマースト島は船を降りる客も少ない。島の一部はフクロウ保護区に指定され、森林地帯ではさまざまな小鳥たちの元気な鳴き声が響いている。鳥のさえずりを聞きながら、木々の間を歩いているだけでも心が洗われるものだ。手を広げると人懐っこいアメリカコガラが、細く冷たい足で力強く指を掴んだ。 雪に覆われた休耕地へ向かうと、白フクロウ同様に北極圏から飛来してきたユキホオジロの群れが柵で羽を休めていた。目的の白フクロウの姿はまだ見当たらない。やがて、先ほどまでの澄み切った冬晴れが、嘘のような雪空に変った頃、ようやく1羽の白フクロウが木柱に止まっている姿を確認した。餌となる野ネズミを探して辺りを見回しているようだ。純白の羽を纏い、黄色く鋭い眼光は、若鳥とはいえ冬の王者といった風格を漂わせている。そんな美しく幽玄な姿に、神聖視せずにはいられなかった。53
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