7国だと思う人もいる。そんな彼等の中で、彼女の口から守一の賞讃を聞き、私は嬉しくなった。 熊谷守一の海外における最初の個展が行われたのがパリで、マティニョン通りのダヴィッド・エ・ガルニエ画廊であった。私はそのことを知らなかったので、パリのギャラリーの主人の眼力に驚いた。 セシル嬢と二人でホテルに帰る道で、カフェーの女主人はギャラリーを経営するのが夢だったと聞かされた。 「そんなに素敵な画家なの? モリカズは」 「ああとても素晴らしい。仙人みたいな人だと日本人は言ってるけどね」 「仙人?」 ハッハハと私は笑った。 日本に帰国して、私はセシル嬢に守一の画集を送った。 彼女から礼状が届き、そこに、とても素晴らしかったわ。マティスにも、ゴーギャンにも似ているところがあったわ。また一人素敵な日本人に逢えたわ、ありがとう、と箋られてあった。 パリでのひとときと、友人の手紙の文章を思い出し、私はひとつ気付いて、『熊谷守一生きるよろこび』と題されたカタログを買って中身を読んだ。そこには二十年前にパリの友人が箋った文章を肯定するかのように、マティス、ゴーギャンの守一への影響を推測する文章があった。 女性の審美眼に少し感激した。フランス、日本の女性に愛され、守一がそれを知ったらどんな表情をするだろうか、と思った。つづ熊谷守一 《ハルシヤ菊》 1954年 愛知県美術館 木村定三コレクションExhibition InformationParis & TokyoNumber 110Shizuka Ijuin「没後40年 熊谷守一 生きるよろこび」は、2018年3月21日(水・祝)まで、東京国立近代美術館で開催中!http://kumagai2017.exhn.jp/一九五〇年山口県防府市生まれ。八一年、文壇にデビュー。小説に『乳房』『受け月』『機関車先生』『ごろごろ』『羊の目』『少年譜』『星月夜』『お父やんとオジさん』『いねむり先生』など。エッセイに美術紀行『美の旅人』シリーズ、累計一六四万部を突破した大ベストセラー「大人の流儀」シリーズ、本連載をまとめた『旅だから出逢えた言葉』(小学館)などがある。最新刊は『琥珀の夢 小説 鳥井信治郎』(上下巻・集英社)、『文字に美はありや』(文藝春秋)。
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