「七賢」最高峰のスパークリング日本酒「杜ノ奏」を発売した狙いをこう語る。 「ヴィンテージシャンパーニュを飲んだ時に感じるラグジュアリーさは、日本酒にはありません。ならば、その表現が似合う日本酒を造ろうと」 では「杜ノ奏」はどんな味わいなのだろうか。 「バニラ香が立って、爽快な香りでスッと消える。それは、白州の、新緑の森の木漏れ日の中を歩いているような爽快な気持ちと同じでした。それがネーミングの由来です」。ただ、ここまでの道のりは、それほど簡単ではなかった。 「ラグジュアリーを名乗るには、ストーリーが必要「ラグ̶ジ̶ュ山ア梨リ銘ー醸な醸日造本責酒任を者造のり北た原か亮っ庫たさんんですは」、です。そこで考えたのが、この白州という土地でしか成立しない日本酒造り。思えば、ここにはサントリーの有名な蒸溜所があります。そのウイスキーの樽を使った地酒は唯一無二のものになるはずだと考えました」。さっそく兄弟でサントリーに相談に行くが、話は1年以上も進まない。市長や地元の有力者の力も借り、ようやく役員と面談し、プレゼンすることができた。そこからはトントン拍子。借用をクリアし、ウイスキー樽のもりのかなで選定をした。「工場長やチーフブレンダーとも検討を重ね、ウッディなもの、スモーキーなものも試しましたが、最終的に軽快・爽快な味を感じさせるタイプの樽を選ばせてもらいました」。 そうして出来上がった「杜ノ奏」だが、七賢には先行する「山ノ霞」と「星ノ輝」がある。そもそもなぜ発泡に行き着いたのか。話は5年前に遡る。 「行政の取り組みもあり、日本酒で乾杯の機運が高まっていました。ただ、アルコールが15度で、どうしてもぐびぐび飲むには向いていません。世界を見渡せば、発泡性のお酒で乾杯するのが常識で、乾杯できる日本酒ならば発泡性のものだと。当時も数社から発泡日本酒は出ていたので、独自の路線を追求すべく研究に入りました。季節の生酒を造っている時に、一定期間貯蔵するとピリピリと微発泡することに気づきました。山梨はワインどころで、スパークリングを手がけているところも多い。彼らのアドバイスも受け、研究を進めました。難しかったのは、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵でした。ワインは瓶内二次発酵に入る際、酵母添加が認められていますが、日本酒は認められていません。同じ発酵でも、実際には製法が異なるのです」 開栓した時に泡が噴いたり、コルクが抜けないなど、さまざまなトラブルを乗り越えて、2015年に「山ノ霞」が完成する。次の目標は、透き通ったスパークリングということで、澱を引いて「星ノ輝」を造り上げた。ラインナップとしては3つ揃えたいとやまのかすみほしのかがやきおりいう意向は、兄の対馬専務とも共有していたが、その方向性は定まっていなかった。 「次はロゼを研究していましたが、赤くするための手法はどれも帯に短し襷に長しで、よいものができませんでした。実は、そのタイミングでサントリーさんの樽が手に入ったので、低温樽熟成してから瓶内二次発酵を試してみたところ、ようやくラグジュアリーと呼べるものができたのです」 飛び抜けたものを造るべく、不断の努力を重ねていたからこそ生まれた天の配剤なのだろう。北原さんは発泡性日本酒の可能性を追求するために、あえて情報公開をしない道を選んだ。 「日本酒は、高級なお酒というと、山田錦をたくさん磨いた純米大吟醸と勘違いされることがあり残念です。うちの発泡日本酒に関しては、品種は非公表にしています。出せば中味より先に商品スペックで価格を考えてしまうので。特にこの新規性の高いカテゴリーについては慎重に考えなければなりません。まだ『シャンパーニュと比べて』というコメントをされる方も多いですが、伝統ある日本酒の造りで、ワイン酵母でなく清酒酵母で造っていることに誇りを持っています。価値の分かるお客様に、しっかり、ていねいに新しいジャンルの日本酒としての価値を伝えていきたいのです」 北原さん〝信念の言葉〞だ。 七賢蔵元杜氏北原亮庫山梨銘醸株式会社山梨県北杜市白州町台ヶ原2283電話 0551-35-2236*七賢スパークリング日本酒のご購入はこちら https://www.sake-shichiken.co.jp/sparkling/左:澱引きを終え貯蔵庫で出荷を待つボトル。下:品名の「杜」は山梨銘醸とサントリー白州蒸溜所がある北杜市の地名から。「奏」は、醸造と蒸溜が響き合い生まれるハーモニーを表す。仕込み水はいずれも甲斐駒ケ岳の伏流水である。きたはら りょうご|1984年生まれ。山梨銘醸株式会社常務取締役兼醸造責任者。経営・営業を担当する専務取締役の兄・対馬さんと共に、創業1750年、江戸時代から12代続く老舗酒蔵ののれんを守り続けている。
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