SIGNATURE 2018 4月号
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「私人と語るキアラ・ムーティ。今年9月にローマ歌劇場日本公演の演目《マノン・レスコー》の演出家として来日する。父は世界有数の指揮者リッカルド・ムーティだ。キアラは幼い時から劇場の稽古場でオペラが舞台作品として出来上がるまでの過程を観るのが楽しみだったという。 「演出家は単なる理論家であってはならないと思うのです。自分の体でいかに表現するかを追求するためには自分が演技してみなければ分からないことがたくさんあります。役柄の解釈を深めること、役柄になりきること、すべて女優の経験から身に付けてきました」と目を輝かす彼女は、当時ジョルジョ・ストレーレルが主宰していたミラノ・ピッコロ・テアトロの俳優養成所で研鑽を積んだ後、多くの舞台を経験してきた。演じる人の立場になって考えることが演出家には大事なことだという。 最近のオペラ演出には奇抜なアイデアや読み替えなどが多い。もちろん時代背景をどこに置いてもかまわない作品もある。最近キアラがフランスで演出したグルックの《オルフェオとエウリディーチェ》は、時代は存在させずにすべてを心理的な視点でが女優であることは演出家としての仕事にとても役立っています」仕上げたそうだ。 「でも《マノン・レスコー》や《フィガロの結婚》のように、それぞれの時代に生きた登場人物が中心の作品は、演出をする上で時代背景が重要な要素になります。時代を変えてしまうとストーリーが信じられないものになってしまうからです。《フィガロの結婚》もボーマルシェが書いたのはあの時代のしきたりによる領主と使用人の関係なのですから、いきなりスザンナがジーンズ姿で登場したりすると、物語の意味がすっかり失われてしまいます。封建制度の時代には初夜権というものがありましたけれど、今日では存在しないのですから、現在の時代設定にしたら何が何だかさっぱりわからない物語になってしまいます。《マノン・レスコー》も1700年代後期のフランスが舞台です。女性の立場が現代とは全く違う時代の物語なのです。でも、ただ単に時代考証をして正統的な演出をしたのではありません。砂漠というイメージが強く浮かんできたので、砂漠をライトモチーフにしました。マノンは砂漠で死んでいくのですが、現実の砂漠ばかりでなく彼女の心も砂漠であったということを表現したかったのです」 観客にとって舞台芸術のおもしろさは客席で観ていながら、物語の世界に生きているような錯覚に陥ることにある。舞台装置や衣装の指示を与えるのも演出家の重要な仕事だ。演出を手がける時は台本を読むことから始め、原作がある作品なら、原作を読み、歴史的な時代背景を調べる。そして、原作者や作曲家がその作品を通して何を訴えたかったのかを考えるのだそうだ。no.81Chiara MUTIお申し込み カンフェティ チケットサービスWEB予約 https://dnticket.jp/フリーダイヤル 0120-243-543 (月~金10:00~18:00 土・日・祝日休)※やむを得ない事情により出演者が変更になる場合があります。 あらかじめご了承ください。※出演者変更にともなうチケットの払い戻し、 公演日・券種の変更はお受けできません。 ※未就学児童のご入場不可。    ※お手元にダイナースクラブカードをご用意のうえ、お電話ください。※お申し込みに際しては88ページの詳細をご確認ください。キアラ・ムーティ|イタリア・フィレンツェ生まれ。名指揮者、リッカルド・ムーティを父に持つ。夫はピアノ界の貴公子と呼ばれるフランス人ピアニスト、ダヴィッド・フレイという芸術一家。ミラノ・ピッコロ・テアトロで名演出家、ジョルジョ・ストレーレルに師事。以降、映画や舞台で女優として活動。2012年にオペラ演出家としてデビュー。ローマ歌劇場の《マノン・レスコー》では、それぞれの場面に自身の女優経験が盛り込まれ、同時に音楽への深い理解が感じられる。2018年の11月には、ナポリでモーツァルトの《コジ・ファン・トゥッテ》をキアラが演出し、リッカルド・ムーティがプレミエの指揮を担当することが発表されている。14©Yasuko Kageyama /TORSignatureInterviewMANON LESCAUTマノン・レスコー

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