SIGNATURE 2018 4月号
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きた。 隣のモロッコ人に習って、パンを小さくちぎり、オイルにつけていただく。 美味しい。手搾りの高級ごま油のような風味。オイルなのに油っぽさがまったくない。ペーストは、優しい深みのある甘みとローストされたナッツの旨みがたまらない。感動的に美味しかったのは当然のこと。搾りたてのアルガンオイルと、作りたてのアムルーと呼ばれるアルガンオイルを贅沢に使ったペーストだった。 村に何をしに行ったのか、なぜあの家にお邪魔することになったのかは忘れてしまったけれど、女性たちの肌がツヤツヤとして美しかったことだけが印象に残っている。 アルガンオイルは、少し前まではモロッコの一地方で細々と作られる、知る人ぞ知るオイルであったが、2001年にイタリアのスローフード協会の第1回スローフード大賞を受賞して以来、ヨーロッパで人気に火がつき、現在では日本でもモロッコといえばアルガンオイルといわれるくらい知名度が上がった。最近では、地方の女性の教育と自立を促すための女性協同組合で生産されることが多く、アルガンオイルを使うことで田舎の女性たちを支援できるということも、意識の高いヨーロッパの女性たちに支持される理由の一つだ。 モロッコで一番の観光地、マラケシュからまっすぐ西へ。大西洋を目指すと、カラカラのひび割れた大地に延々と低木が生えているのが見えてくる。アルガンツリーの林だ。 節くれだった枝に細かい葉がびっしりとつき、オリーブのような実が生っている。その姿はお世辞にも美しいとはいえないけれど、生命力にあふれている。根は地中深くおよそ30メートルの深さまで伸び、3年間雨が降らなくても枯れない。この木は、世界でもモロッコの西部のこの地域でしか育たない。元々は自生していたが、現在では植林も行われており、砂漠化防止にも役立てられている。 オイルは、実の中にある核をすり潰したものを搾って作られる。伝統的には完全なコールドプレスで時間をかけて作られるが、最近ではすり潰す過程を機械で行うことがあるので、要注意。信頼できるメーカーのものを手に入れたい。オリーブオイルの3から4倍含まれるといわれるビタミンE(トコフェロール)のほか、様々な脂肪酸を豊富に含み、肌と体の老化防止、保湿によいほか、美白にも効くといわれている。美容用と食用があり、美容用はサラダオイルのような色、食用は製造過程でローストされるので、褐色がかっている。 使い方は簡単。良質のさらっとしたオイルなので、お風呂上がりのしっとりとした肌にそのまま伸ばす。髪の毛から爪先まで、一本でOKの魔法のオイルだ。時間があるときは、質のよいコンディショナーにアルガンオイル小さじ1、蜂蜜小さじ1を加えたものでパックをすると、髪がサラサラに。蜂蜜とオイルを半々にミックスしたものは、顔や手のパックにオススメだ(蜂蜜を使う場合は、パッチテストをお忘れなく)。 食用は良質のごま油やオリーブオイルのように、パンにつけたりサラダのドレッシングに使うほか、「アムルー」というディップにすることが多い。作り方は食用アルガンオイル、ローストしたアーモンド、上質の蜂蜜を好きな分量でブレンダーにかけるだけ。モロッコでは高級リアドの朝食の定番で、食料品店や土産物屋でも手に入るが、作りたてが美味しいので、アルガンオイルが手に入ったらぜひお試しを。38モロッコ国内では、製造元の協同組合のほか、大きめのスーパー、ナチュラルコスメ専門店、空港などで手に入る。BIOマーク(オーガニックマーク)付きの、できるだけ製造日が新しいものを。オイル農家の人によれば、できれば3か月以内に使ってほしいとのこと。エッセンシャルオイル配合のマッサージオイルなども、モロッコならではの贅沢なお土産として喜ばれる。
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