SIGNATURE 2018 4月号
49/82

ひとしぎょくせんどうついきII旅 IIを終えた人たちが名残惜しそうに列車に手を振って見送る。「チリン! チリン!」、駅員の振るハンドベルは、列車がホームから消えるまで鳴り止まなかった。 最後の光景に、旅の真髄を感じた。 そこは、上野駅13 ・5番ホーム。去っていったのは、「TRAN SUTE四季島」だ。半年以上も先の予約があっという間に埋まるという大人気列車の魅力はなんだろう。 JR東日本が、そのネットワークを最大限に生かして〝新次元の列車旅〞の運行を開始したのは2017年5月。「深遊探訪」のコンセプトのもと掲げるテーマの一つが、「まだ、知らないことがあった、という幸福」。それを実感してもらえるよう、季節ごとの旬の景色や美食、そして人々との新しい出会いを導いてくれる道程が3泊4日に凝縮されている。「もう日本全国を回りきったよ」と、豪語する人こそ、この〈旅物語〉を体験するべきだろう。 旅程を紹介しよう。ハイヤーの出迎えで、上野駅の最も古いエントランスを経由して『PROLOGUE四季島』というラウンジにチェックイン。そこからはもう、大きな荷物を自分で動かす必要はない。旅をもてなしてくれる車掌やクルーたちの紹介を受け、駅長の歓迎セレモニーが終わると、いよいよ列車へ。乗客だけが足を踏み入れることが許される 13・5番線から、入口となる5号車に乗り込むと、列車とは思えない空間が 「TRAN SUTE四季島」最初の立出迎えてくれる。ち寄り駅は、日光。そこでも特別な待遇が待っている。世界遺産・東照宮の宮司さん自らがガイド役になって旅の安全を祈願した後は、普通では立ち入ることの許されない宝物蔵や駅の貴賓室も見学もできる。他にも、函館では市電を貸し切っての市内観光など、鉄路を離れたアクティビティにも格段の配慮がなされる。 旅を彩る大事な要素である食はどうだろう。総料理長・岩崎均氏による和のテイストを感じさせるフレンチは、列車内という条件をまるで感じさせず、東日本各地の「旬素材」がふんだんに盛り込まれている。ほかにも山形・鶴岡の著名イタリアン『アル・ケッチァーノ』の奥田政行氏による朝食など、名前を挙げたらきりがないほど、沿線を代表する料亭やレストランの「食のもてなし」が堪能できる。 最後は、人との出会い。世界的にも有名な金属製洋食器の街、燕市。その老舗『玉川堂』では「鎚起銅器」の職人技に酔うことだろう。ここに記した以外にも多くのオプションが用意され、出発前のうれしい悩みになるはずだ。「あっという間の4日間だった」と参加者たちが口を揃えたところで、冒頭の別れの儀式を迎える。立ち寄り駅、沿線、訪れる場所場所での、温かい歓迎とおもてなしがプレイバックするのだろう。「また乗りたい」という気持ちとともに。55*料理写真はすべてイメージです3泊4日の東日本を周遊するコースでは、日光に立ち寄り、一路、東北本線を経由し青森まで、津軽海峡を経て函館から登別の道南を往復し、帰路は日本海側を奥羽、羽越、信越、上越、高崎、東北本線の路線を経て上野駅に帰着する。各日とも下車観光が含まれ、知られざる東北のエッセンスを堪能できることも、旅の愉しみの一つだ。

元のページ  ../index.html#49

このブックを見る