SIGNATURE2018年05月号
39/84

界が深みを増す。従来のミュージカルではなかなか味わえなかった、舞台との視覚的な一体感が観客に好評だ。  たとえば第1幕のラストシーン。苦難の末、旅を続ける主人公一行が目的地のパリに到着した瞬間の情景描写は、息を呑むほどに印象的だ。深い森と桜の木々を抜けた直後、眼前には突如としてきらびやかなパリの街並みとエッフェル塔が現れる。物語の進行に沿って変化し続ける情景描写は、役者たちの演技とあいまって、3D映画とも異なる独特の臨場感を提供してくれる。  しかし、伝統重視の舞台芸術ではこの手の映像技術導入はまだ新しく、同時にやり直しがきかない点では作り手の緊張感も半端なものではないという。 「現場ではたくさんのコンピューターとLEDタイル、ビデオケーブルが使われています。技術の享受と同時にトラブルも覚悟しなければ」と、アーロン氏。それでも最新技術の波は確実に舞台芸術界に押し寄せているという。 変わりゆくミュージカルと、その舞台裏に潜む作り手の情熱と決意。そんな熱量を想像しながら、今年の話題作を楽しむのも興味深い。43右:主人公アニャ(アナスタシア)のパリ到着シーン。舞台と映像技術が融合した瞬間。左:主人公の記憶の底にある宮殿での華やかな日々をCGの亡霊で幻想的に表現。下・左右:夜が最も華やかな劇場街。Aaron Rhyne/アーロン・リン。ミュージカルをはじめ、オペラやダンスなど、100を超える様々な舞台芸術作品のビデオプロジェクション・デザインを手がける。現在はLAとNYに拠点を置き、活躍中。AnastasiaBroadhurst Theatre 235 West44 St., New Yorkwww.anastasiabroadway.com/japanese/Information

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る