旅先でこころに残った 言葉一一二回ペブルビーチのアトランタ近郊も冬は大変な積雪で、数ヶ月の間ゴルフをすることがかなわないのを知り、そんな冬の夕暮れ、暖炉の炎を見つめながら、春になったら、去年失敗の多かったあのホールを、今年はこういうことを気を付けてプレーしようなどと思いをはせるという話を読んだ。――そうか、そういうゴルフもあるのか……。 そこで私は、その年、一番苦労したホールのことを思い返してみた。 それが、その年の春に出かけたアメリカ西海岸にあるペブルビーチの9番ホールであった。 私はこのコースを、その年までで三度訪れ、10ラウンド近くプレーしていた。私のゴルフの腕前のせいもあるが、9番ホールで何度も大叩きをした。他のホールではなんとかプレーできるのだが、この9番ホールに来ると、平常心を失っていた。ドライバーでのティーショットをやめたり、二打目をレイアップもしたし、太平洋にむかって極端に速いグリーンの対策もするのだが、パーが取れなかった。 おそらく、これがペブルビーチに来る最後になるだろうという日も、9番ホールはトリプルボギーであった。失望する私に苦笑しながら「あんたにとってあのホールは悪魔でも棲んでんのちゃうか」と同伴プレーヤーから言われた。 そんなジョークが耳に入らぬほど、私は落胆し、コースを離れた。 私は生来、物事にあまりこだわらないし、いつまでもくよくよすることがない。少年時代、学校へ鞄を忘れて行くことなど初中後で母から「呑気な父さんね」と言われた。 帰りの飛行機の中で数日間のスコアカードを見返し、独り吐息を洩らした。私にしては珍しいことであった。 宮本氏から9番ホールの写真が届き、家人がレンガにしょっちゅう8右の切り込み写真が、伊集院氏宅の暖炉に飾られている「ペブルビーチゴルフリンクス」朝の9番ホールの写真。左は18番ホールのティーグラウンド。前ページ:朝もやの9番ホールからカーメルビーチを望む。このページ見開き:朝の18番ホールPebble Beach, CaliforniaNumber 112Pebble Beach
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