SIGNATURE2018年05月号
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 腕時計のデザインには、他の工業製品にはない難しさがある。これは、腕時計を初めてデザインしたプロダクトデザイナーを取材すると、必ずといってよいほど語ってくれる話だ。製品化に至るまでの間、ほかでは経験したことのない、さまざまな制約にぶつかるのだという。 腕時計は小さなパーツの集合体だが、ひとつひとつに要求される精度は、他の製品よりも高い。また、デザインが図面上では完璧に見えても、試作してみると微妙な違和感があることも珍しくない。巨匠と呼ばれるウォッチデザイナーの作品が、数十年を経た今も輝くのは、時計づくりに対する深い知識と経験がそのデザインに反映されているからだ。 ヨルグ・イゼックも、そんな巨匠のひとり。名だたるブランドで歴史に残る数数の傑作、名作を生み出してきた。今回ご紹介するHYSEK(ハイゼック)は、そのイゼックが1997年に設立した時計ブランド。2017年には、記念すべき誕生20周年を迎えた。 イゼック本人はすでにブランドを去っているが、彼が残した珠玉のデザインとブランドのDNAは2000年にオーナーとなり、2016年までCEOを務めたアクラム・アルジョード、同年に会社を引き継いだ息子で現CEOのラルフ・アルジョードの手で大きく発展した。 この飛躍のきっかけが、2007年のマニュファクチュール化、つまり機械式ムーブメントをはじめとする構成部品の自社内での研究・開発・製造体制の確立だ。以降、独創的な機械式ムーブメントとその搭載モデルを続々と開発。唯一無二の価値で時計愛好家たちから高い注目と支持を得た。その一方で、誰もが楽しめるモデルの開発にも力を入れてきた。 左ページ上側の「V-キング」は、別名イゼック・モデルとも呼ばれる、本人がデザインした最先端の橋梁を彷彿させるトノー型ケースが印象的な腕時計。12時位置にビッグデイト表示、8時位置に月カウンターを備え、カレンダーの修正が年に1度だけですむ、完全自社開発&製造の年次カレンダームーブメントを搭載する。そして下側の「アビス」は、サファイアクリスタル製のベゼルとリュウズガード一体型、ブラックダイヤルとブラックPVD加工ケースの精悍な色使いが際立つクロノグラフ。そして、どちらも快適な装着感を実現する、独自の可動式ラグを装備する。 この抜群の着け心地と際立つ個性を、あなたにも、ぜひ体験してほしい。52写真・大志摩 徹 文・渋谷ヤスヒトPhotograph by Toru OSHIMA Text by Yasuhito SHIBUYAハイゼック――返り咲くスイスの名時計HYSEK

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