SIGNATURE2018年05月号
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「日本酒とは思えないような味わいをつくり出したい」||七賢の醸造責任者・北原亮庫さんはこう切り出した。昨年のSAKECOMPETTONの獲得した「七賢大中屋斗瓶囲い純米大吟醸」は彼の蔵から生まれた。 「斗瓶囲いとは醪の中で、米を潰さずに搾ってピュアな部分を垂らした日本酒の製法です。『雫酒』『袋吊り』など蔵ごとに名称は異なりますが、搾れる量も少なく、作業も大変です。鑑定酒として出品されることも多く、お客様がこのタイプのお酒を口にされる機会はあまりないと思います」七賢では数日前まで「酒蔵開放」イベントを行っていたが、〝斗瓶囲い〞を口に含んだ人は「これはなんなの?」と、びっくりするという。「飲みやすいというお客様もいらっしゃいましたが、飲みやすいだけだと、究極は〝お水〞ですので(笑)。口に含んだときに違和感も引っかかりもない、喉元を通っていく柔らかい味わいを感じていただけるとうれしいですね」と北原さん。一般的に純米大吟醸は、日本酒の「Super Premum部門」で第一位を最高峰とされる。どんな楽しみ方をすればいいのだろうか? は「食前酒としても十分に楽しめますが、料理と合わせるのならば、白身魚や鶏肉が合うと思います。青菜のお浸しなどの淡い味のものがいいでしょう。純米大吟醸にもさまざまなクラスがあるので一概にこうというルールはありませんが、〝斗瓶囲い〞の場合は、香りや味わいに厚みがあるため、通常の日本酒ではあまり合わせないようなお料理とも意外と相性がいいです。たとえば白身魚のカルパッチョなどもおススメです。いずれにせよ、お食事の前半に合わせていただきたいですね」と語る。取材に向かったのは、最後の仕込みの最中。今年の「七賢」について、「最高峰の〝斗瓶囲い〞に限らず、今年はより麹造りに磨きをかけています。〈吟醸造り製法〉を全商品に落蔵元杜氏とし込み、全体的なボトムアップを図っています。もう一つは醸造の最中に感じる酵母のストレスを極力少なくすることで、クリーンで滑らかな味わいがつくり出せると思っています。従来の吟醸造りは、〈長期低温発酵〉が主流でした。今は闇雲に時間をかけることだけがいいのではないという時代になっていて、酵母の状態を見ながら素直に最後の搾りに向けて進めています。ですから、醪の発酵日数は若干ですが短くなっています。それによって、酵母が死滅した時のオフフレイバーや雑味が抑えられると思っています」手応え「あり」なのだろうか? すると、こんな言葉が戻ってきた。 「最初より後半の仕込みのほうが、情報や経験も積み上がり、その年の傾向が理解できます。ただ、『今年はこれが正解だな』とつかみかけたところでその年の酒造りが終わってしまう。毎年同じことの繰り返しです(笑)。秋の収穫では、米の出来が違いますから、また来季は一からスタートです。酒造りの〝真髄〞を手に入れたと思ったところで、すり抜けていくんです。理想の酒造りはなかなかつかめませんね。通年で造り続けることもできるのですが、考える時間も必要だと思うので、四季醸造ではなく、あえて三季醸造にしています。ずっと走り続けていると、肉体的な部分もさることながら、精神的な疲労も重なってくるので、1年間突っ走り続けるのは難しいですね。酒造りから離れてリフレッシュする時間は必要だと思っています」奨励賞を受賞以来、「ご縁とタイミング」を強く感じ、自分の周りのスピード感も変わったと、この一年を振り返る。オフシーズンは、酒造りの仲間以外にも、さまざまな「モノづくり」の人に会うことを心がけているそうだ。その人たちの哲学に触れることがなによりの刺激になるという。「七賢の酒、というモノがあっての自分です。これからも現場主義で、初心を忘れずに常に挑戦者でありたいと思っています」。理想の地を目指す男の顔があった。ダイナースクラブ若手秘めたる自信を感じさせながら、もろみしずくざけ66七賢蔵元杜氏 北原亮庫山梨銘醸株式会社山梨県北杜市白州町台ヶ原2283電話 0551-35-2236*七賢「大中屋」のご購入はこちらhttps://www.sake-shichiken.co.jp/    i II     きたはら りょうご|1984年生まれ。山梨銘醸株式会社常務取締役兼醸造責任者。経営・営業を担当する専務取締役の兄・対馬さんと共に、創業1750年、江戸時代から12代続く老舗酒蔵ののれんを守り続けている。上から:ほころび始めた北原家母屋の庭の梅。/麹室で最後の仕込みにかかる北原杜氏。/蔵の敷地内には、そこここに春の芽吹きが。/七賢の仕込み水を生む名峰 ・ 甲斐駒ケ岳。

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