SIGNATURE 2018年 6月号
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さらそうじゅがあった。ちょうど青紅葉を背に一枚の絵のようで美しい。小柄なその姿は、瀬戸内寂聴その人。 「この庭はね、私がデザインしたのよ。造成地で一本の木もなかったんだから」 庭には、金縷梅、梅、椿、桜、木犀、沙羅双樹、藤、牡丹、桔梗、紫陽花、福寿草等々、数え切れないほどの種類が植えてあるが、四季折々楽しめる工夫が凝らされている。 「みな根付いてくれたわね、一つひとつに思い出がある。寂庵のお庭に来たのも、ご縁があったのね」と愛おしそうに見渡した。 「この世のことは、すべて不思議なご縁によって結びついています。人という字が互いに支えあっているのを表しているように、人はひとりでは生きてゆけない。誰かに支えてもらって生きています。それが縁というものです。私たちはご縁に生かされているの」 寂庵の一木一草には思い出があるのだと言う。 「この木はね、出版社の人からもう40年も前にいただいたのよ。これはお参りに来られた方、これは、ご相談に来られた方……」 それぞれの様子を思い出すように目を配る。相談に来られた方はきっと藁にもすがる思いで寂聴尼に話をされたことであろう。生きている限り人の悩みは尽きない。悩み、立ち行かなくなった時にどうしたらいいのか尋ねてみた。庵の階段を上り切ると、そこには紫の衣をまとった一人の尼僧の姿きんるばいあじさいもくせい 「生きている限り人は悩むもの。お釈迦さまは、この世は〝苦〞だとおっしゃっていられます。苦しいこと、つらいことが起こっても絶望しないで。ボールも地に落ちたら必ず跳ね上がるでしょう。人も苦のどん底に落ちたら跳ね返りますよ」 そう語ると寂聴尼は「ねえ、見て、寂庵のお庭が世界一きれい!ょう」と続けた。その言葉に心が和んだが、同時に彼女の魅力の一端を垣間見たような気がした。 今まで歩んできたこの人の人生はドラマチックであるが、実に激しい。しかし激しさの中に情熱と冷静さが互いに交差しているようにも見え、その経験が人々の救いとなっているのではないだろうか。では愛とは何であろうか。次から次へと聞いてみたいことが湧き上がる。 「人はこの世に愛するために生まれてきました。愛とはね、許すこと、そして、相手の心を思いやること。自分のことは忘れて、相手の欲しがるものを与え、欲しないものは与えないこと」 なかなかそう簡単にはいかないのではないか。愛してしまうと無我夢中になり、押しつけの愛にはならないだろうか。疑問が頭をよぎる。 「人というのは、常に自分の利益を中心に考えがち。男女の恋愛だけではない。夫婦、親子、友達、上司と部下、思い当たるでしょう?愛するために悩むことではないかと考えるようになったの。人間は無関心なもののためには悩まないし腹も立たない。出逢いは神秘的で美しく、愛はかけがえの きれいでし 私はね、生きることはない唯一の真実なのよ」 寂庵の境内には、「道祖神」「涅槃石仏」「姫百合観音」など、彫刻家・須藤賢氏の手になる20尊の石仏が安置されているが、その中に1尊だけ寂聴尼自らが彫ったものがある。ほかにも本堂の中の木彫「地蔵像」、土仏「弥勒菩薩像」など寂聴尼作のものがあるが、どこか本人に似たふっくらとした顔かたちが印象的だ。クマザサの間から顔を覗かせている石仏もあれば、苔に覆われた石仏もある。そのいずれもが時の流れを感じさせる平和な味わいがある。 「死というものは、必ず、いつか、平等にみんなにやって来るもの。こんな平等はない。だからこそ、今をどのように生きて行くか、自分は何をしたいか、生きることに本当に真剣になれば、死ぬことなんて怖くなくなるものです。96歳が言うのだから間違いないわよ」 生きる目標を見つけることが生きがいにもつながる。軽妙で滋味豊かな話は、実に心地よい。いつのまにか青空説法になっている。 「私たちは生かされている。生きているうちは元気にほがらかに、力いっぱい生きることが、いつか来る死を迎える一番いい方法だと私は思うの。どうぞ一日一日を大切に過ごしてください。そして、『今日はいいことがある。いいことがやってくるんだ』。そう思って生活してみてください。心が少しは楽になりますよ」 男女の愛を経て、人間愛、悟りの愛、瀬戸内寂聴その人こそ、愛そのものなのかもしれない。14*瀬戸内寂聴さんはご高齢のため体調不良等により、 予告なく出演キャンセルや実施内容が変更になる場合があります。 その場合でも、本イベントは実施し、実施内容・出演者変更に伴う、 参加費の変更はございませんのであらかじめご了承のうえ、 お申し込みください。*当日のスケジュール、その他注意事項については 84ページを必ずご確認ください。参加費:お1人様 23,000円またはダイナースクラブ リワードポイント46,000ポイント(昼食・飲み物、講演料、お土産の書籍*、税込) *瀬戸内寂聴さん、瀬尾まなほさん著書お申し込みはダイナースクラブ・イベントデスクまで0120-508-800月~金 10:00~18:00/土・日・祝休会員のみなさまから開催希望の声が多く寄せられていた瀬戸内寂聴さんの講演会を、『寂庵』を貸し切り開催します。最近では稀少な開催となっている講演会にぜひご参加ください。日時:2018年7月7日(土) 11:30~15:00終了予定会場:(昼食)『渡月亭』京都市西京区嵐山中尾下町54-4(講演)『曼陀羅山 寂庵』京都市右京区嵯峨鳥居本仏餉田町7-1募集人数:先着100名様 ※会員1名につき、最大4名様までお申し込みいただけます。※先着順での受け付けとなり、お申し込み時にはすでに満席の場合もございます。下:寂聴さんが彫ったお地蔵さん。/『寂庵』入り口。ダイナースクラブ会員限定企画瀬戸内寂聴さん講演会寂

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