SIGNATURE 2018年 6月号
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6人はさまざまな思いを抱いて海を眺めている 日本の中の旅でも、海外での旅でも、スケジュールの中に港町を訪ねる予定が入っていると、それだけで楽しみになる。 瀬戸内海沿いのちいさな港町で生まれ育ったせいか、子供の時は海の気配がいつも感じられる場所にいた。 新幹線に乗っていても海側の窓辺の席をとり、海が見えると身を乗り出している自分がいる。 「あっ、海だ」 声にこそ出さないが、少年時代にそう叫んでいた感覚がよみがえる。 数年前、古い手帳を整理していた折、自分はどの街に一番多く滞在したかを何となく調べてみた。海外はパリが一番多かった。友人が多くいたこともあるが、ヨーロッパの旅の起点をパリにしていたことも滞在が長かった理由だろう。 次に多かったのがバルセロナだった。意外に思えたが、カタルーニャの人々の生き方、生活が好きで、土地との相性が良かったのだろう。 ぼんやりとふたつの街のことを想っていた時、このふたつの都市が港町であることに気付いた。 パリが港町? と思われる読者もあろうが、パリはフランスの歴史の中で長く代表的な港町であった。陸揚げされる物資の量も出荷される量も、一、二の大きな港町だった。海ではなく、セーヌ河の港である。だから今でも街や地区の名前に港をあらわす言葉が残っている。バルセロナは古代か一一三回文・写真・太田真三旅先でこころに残った  言葉マルセイユ伊集院静Text by Shizuka IJUINPhotograph by Shinzo OTA

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