SIGNATURE 2018年 6月号
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らの港だ。そのことに気付いて、さらに手帳をめくると、他の国であっても港町の滞在が多いことがわかった。 港町は夕景が美しい。 朝の霧や靄に包まれた港の風景も味わいがあるが、夕陽にかがやく海と丘陵は、港町だけが持つ、独特の美眺だろう。 砂浜やビーチは港町にむかない。船が出入りするのだから当たり前のことだが、美しい港町には、美しい丘がある。バルセロナにもモンジュイクの丘がある。 しかし地中海沿岸で一番印象に残り、素晴らしい港だと思ったのは、マルセイユ港である。 マルセイユの夕景はとりわけ美しい。湾を囲む丘陵が赤い稜線となって染まり、南端にそびえるバジリク・ノートルダム・ド・ラ・ガルド(守護の聖母のバシリカ)の突端に立つ黄金の聖母子像の、まるで光を四方に放っているかのような姿には、どこか幽玄なものさえ感じてしまう。 マルセイユ港は三方を丘陵が囲んで、ドームのような地形である。このことも天然の港として古代から盛えた由縁だろう。 マルセイユには三度訪れた。 最初はナポレオン・ボナパルトの取材でトゥーロン港を見て回った折、フランスで最大の港を見てみようと立ち寄った。コーディネーターの女性から言われた、 「美味しいブイヤベースがありますよ」 の言葉にも誘われた。 その時に黄金の聖母子像を初めて見て、もや7地中海に臨むマルセイユ旧港の夕景。港の入り口に位置するサン・ニコラ要塞横のエミル・デュクロー公園から。

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