「國酒」たる日本酒を、世界に ’ 『Tetsuya 「確かに現在、日本酒の輸出は伸び さまざまな国の人々を虜にする日本酒。だが数字を見ると「海外で日本酒がブーム」とは一概に言えないようだ。2006年から、若手の蔵元の全国組織『日本酒造青年協議会』の酒サムライ活動に、酒サムライコーディネーターとして参画する平出淑恵さんは話す。ています。しかしその量は全生産量の4%ほど。金額にして187億円です。まだまだ日本酒は、ほぼ国内だけで飲まれていると言っていい」 フランスの「國酒」たるワインと比較するとその差は歴然だ。フランスワインの輸出は生産量の半分近くで、約1兆円の外貨を獲得している。さらにワインはフランスの観光、地方への誘客の目玉にもなっている。フランスだけでなく、後発国のアメリカもしかり。カリフォルニア州ナパヴァレーは高品質のワインを生産することで一大観光地となり、世界中でワインツアーが組まれている。 いま日本でも「國酒」たる日本酒を世界に発信し、産地をブランド化し、地方活性化と経済効果につなげていく――そのためのプロジェクトが動き出している。ヒントとなるのはやはりワインビジネスの方法論だ。 「フランスワインが日本でこれだけ飲まれ、ボルドー、ブルゴーニュなど生産地域が知られるようになったのは、ワインの教育機関による教育があったからです。ワイン産業の柱は『エデュケーション(教育)』『コンペティション(コンクール)』『プロモーション(宣伝活動)』。これを日本酒に当てはめて実行することで日本酒の未来が見えてくるのです」 「プロモーション」を支えるのは「酒サムライ」の事業。ワインの世界における「騎士(シュバリエ)」に倣い、日本酒を愛する応援者に「酒サムライ」の称号を与え、国内外でその魅力を発信してもらう。マスター・オブ・ワインにして著名ワイン・コンサルタントのサム・ロップ氏や、棋士・谷川浩司氏などそうそうたるメンバーが集う。 そして「コンペティション」。2007年には世界最大のワインコンペティション「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」にSAKE部門が設立され、ワインと同じ舞台で日本酒の発信が可能になった。これまでに福島県喜多方市の「会津ほまれ播州産山田錦仕込純米大吟醸」、岩手県二戸市の「南部美人特別純米」、山形県天童市の「出羽文・中村千晶 写真・栗林成城桜出羽の里純米」、岐阜県高山市の「飛騨の華酔翁熟成古酒」などがチャンピオンに輝いている。生産地と銘柄、味をつなぐことでワインツーリズムならぬ〝酒蔵ツーリズム〞の需要も増えつつある。 「エデュケーション」の環境も整ってきた。2014年に世界最大のワイン教育組織「WSET(ワイン&スピリット・エデュケーション・トラスト)」にSakeコースが設立されたことで、ワインビジネスの中心で活躍する人材が日本酒を学ぶ環境が整ってきた。各国のワインビジネスの最前線に日本酒を乗せ、販路を拡大する目的もある。 「南半球でもっとも予約の取れないレストランといわれるシドニーのs(テツヤズ)』のオーナーシェフで、酒サムライの一人でもある和久田哲也シェフがサケディナーを行った際に、まず高級シャンパンとキャビアを供し、そのあとに日本酒を出して、シャンパン×キャビアの定石を前提に、魚卵であるキャビアには日本酒のほうが合うことをガストロノミーなゲストに伝えたのです。このように彼らの既成概念に乗せて、徐々に日本酒を浸透させていくというのもひとつの方法です」 日本酒を「どう感じるか」は、国のバックグラウンドによって違う。ただ、ワイン文化を持つ人々への入り口として、ずっしり重めの生酛造りより「白ワインのような」口当たりの日本酒が好まれる傾向もある。 たとえばワインの産地・山梨県北杜市の「七賢」。シャンパーニュの瓶内二次発酵に則った「米のスパークリング」に挑戦し、繊細な甘みと旨みと、やわらかな口当たりに辿り着いた。彼らが目指すのは「シャンパンに代わる日本酒」だ。こうした試みは確実に実を結んでいる。 昨年5月には「パーカーポイント」が日本酒800銘柄を採点し、90点以上の78銘柄を発表した。日本酒をめぐる動きは、日本人にとってもその魅力を再発見するチャンスだ。 國酒たる日本酒を、世界へ。私たちはいま、そのとば口に立っている。のっと36酒サムライコーディネーター。 JAL国際線担当客室乗務のかたわら、 日本ソムリエ協会認定ソムリエ、 シニアソムリエの資格を取得。 2006年、 社外活動として若手の蔵元の全国組織「日本酒造青年協議会」の酒サムライ活動に参画し、 世界最大規模のワインコンペティション「IWC」に日本酒部門を創設。 10年、 希望退職し『コーポ・サチ』を設立。 「Sake から観光立国」をスローガンに、 日本酒の国際化を通じて日本各地の文化を世界に紹介する活動に尽力する。 http://coopsachi.jpText by Chiaki NAKAMURA Photograph by Shigeki KURIBAYASHIToshie HIRAIDE平出淑恵
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