九州の愛に包まれて 豪華クルーズ・トレインがブームである。「豪華」に目のない私は、もちろん、すべてに心惹かれる。しかし、もう一人の私が耳元で囁く。「ななつ星」に操を捧げたんじゃないの、アナタは! だって、何と言っても、「さきがけ」なのである。今まで日本になかった、「列車に乗ること自体が目的となる」周遊型豪華寝台車を、ゼロから創り上げたのだ。その覚悟と苦労は並大抵のものではなかっただろうと思う。 だが、乗っていなかったら、ここまでヒイキだったかどうか。 乗ってみて、初めて知ったのである。あ、ここはまさに九州なのだ。「ななつ星」は、九州をまるごと乗せて走っているのだと。 贅を凝らした内装については、数々の報道で知っているつもりだった。たとえば、洗面台に設えられているのは、人間国宝・十四代酒井田柿右衛門の洗面鉢だという。 私もたった2つだけ、柿右衛門の湯呑みを持っている。むかし唐津にロケに行った時、思い切って買い求めたものである。だが、勇気を奮えたのはいちど限り。以来、使うたびに惚れ惚れとし、もう少し買い足したいと思いつつ、30年間、手が出ないままでいる。 湯呑みでも使うのが畏れ多い柿右衛門を、洗面鉢に!? なんだかバカバカしいほど贅沢……。しかし、この贅沢が思いの外、素晴らしいのだ。部屋ごとに形も文様も違うという洗面鉢は、偶然にも、我が家の湯呑みと同じ「錦柿文」だった。手を洗うたび、口をすすぐたび、流水の下で柿の文様が輝きを増すのを、飽かず見とれてい「ななつ星」ファンの記文・檀 ふみ30唐津から望む玄界灘 写真・永田忠彦写真提供・檀ふみ事務所CRUISE TRAIN “SEVEN STARS IN KYUSHU”
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