が配置したものではなく、どこかよそよそしかった。 マヨルカでの二日の滞在を終え、お世話になった学芸員の女性に礼を言いに行った。 「本当にミロがお好きなんですね」 「ええ……」 「私が考えているミロの本当のアトリエがあるのですが、ご覧になりますか?」 彼女の言っていることがわからず、後をついて行くと、そこは倉庫に使われている場所であったが、大きなシーツを彼女が下ろすと、その一角の壁に、ミロが描いたいくつかの小作があった。創作途中の、いや創作にふける画家が何かを探し求めて描いたものであろう。 まさに子供の落描きに映るものだった。 私はしばらくそこに立ち、素晴らしい線とカタチを見続けた。目がうるんだ。 ミロは自作のことはほとんど語らない人であるが、数少ない言葉の中にこうある。 「ちいさな線がやがて宇宙へひろがれば……と思っています」 実に素晴らしい旅であった。7マヨルカ島・パルマのアトリエの壁に残されたミロの落描き。 一九五〇年山口県防府市生まれ。八一年、文壇にデビュー。小説に『乳房』『受け月』『機関車先生』『ごろごろ』『羊の目』『少年譜』『星月夜』『お父やんとオジさん』『いねむり先生』など。エッセイに美術紀行『美の旅人』シリーズ、本連載をまとめた『旅だから出逢えた言葉』(小学館)などがある。新刊に『琥珀の夢 小説 鳥井信治郎』(上下巻・集英社)、『文字に美はありや』(文藝春秋)。最新刊に、累計百七十万部を突破した大ベストセラー「大人の流儀」シリーズから珠玉のエッセイを抜粋した『いろいろあった人へ』(講談社)がある。Shizuka Ijuin伊集院 静
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