SIGNATURE 2018 10月号
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Eiko SONOくじょうみちいえとうこさつそのえいこうかていたもんてんはっ左:通常非公開の法堂。本尊は釈迦如来立像。脇侍は摩訶迦葉尊者・阿南尊者立像。天井には堂本印象筆の巨大な蒼龍図が描かれている。右:坐禅のとき修行者の肩や背中を打つ警策(棒)は、文殊菩薩の手の代わりとされる。 境内のおよそ2000本ものカエデが色を競い合い、「錦秋」という言葉を体現する東福寺の紅葉。その錦の海原のような秋景色が、重要文化財や国宝を含む日本最大級の伽藍の荘厳なシルエットを際立てる。13世紀、鎌倉時代に始まるこの古刹の縁起を、東福寺法務執事の爾英晃師に伺った。 「東福寺は嘉禎2年(1236年)に摂政・九條道家が発願しました。道家には、新しい仏教センターをつくりたいという強い思いがあり、19年もの歳月をかけて京都最大の大伽藍を造営し、 ヽヽ 創建当時の伽藍は大半が失われたが、奈良の東大寺、興福寺から一文字ずつとって東福寺としました。東大寺に倣って、仏殿本尊には高さ15メートルの大仏を建立しましたが、後に焼失。左の仏手だけが残されています」その時代の最高の技術で再建され、揺るぎない威容を誇る。現在の仏殿・法堂は、昭和9年(1934年)の落成。昭和に建てられた最大級の木造建築で、ここにも由緒のある仏像がある。「四天王像のひとつ、多聞天は運慶作と伝わっています。丹念な造りに、興福寺にある運慶の作品に通じる雰囲気を感じています」。天井画の龍は、近代日本画の巨匠・堂本印象(1891〜1975年)が手がけた。今回のダイナースクラブのイベントでは、この法堂を特別に拝観できる。通常非公開の神聖な法要の場。時代を超えた仏教美術の名作が競い合う空間を心ゆくまで体感したい。そしてもう一つの特別拝観が、重要文化財の禅堂だ。「これほど古い禅堂が残っているのも、東福寺だけです。室町時代に再建されたもので、日本最古、最大となります」。堂内には多くの修行僧が悟りを求めて参禅した気迫が今もみなぎる。 「いまでこそ、紅葉で多くの観光の方に来ていただく東福寺ですが、室町時代までは桜の名所だったのです。花見の騒ぎが修行の邪魔になるという理由で桜をすべて切ってしまい、そこにカエデが繁殖したのです。 禅宗では、俗世から身を置いて、ひたすら坐禅を通して自己を見つめる厳しい修行をします。それは実際の体験を通してしか得られない境地です。禅の本場の空気を、ここでぜひ感じてもらえたら、と思います」大本山東福寺法務執事日本最大級の伽藍で出合う、禅の精神と錦秋の美爾英晃TOFUKU-JI Temple臨済宗東福寺派大本山その えいこう|大本山東福寺法務執事、臨済宗東福寺派法務部長、塔頭・天得院住職。東福寺保育園の園長も務める。「東福寺の紅葉は一年を通して、時季ごと、種類ごとの個性も見ていただきたい」。33京都市東山区本町15丁目778 電話 075-561-0087http://www.tofukuji.jp/東福寺

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