CSignature歌舞伎名場面文・川添史子ふういんきりにのくちむらせがれじゅずやまち1 イラスト・大場玲子(兎書屋) 歌舞伎の祖・出雲の阿国が「かぶきをどり」を見せたと伝わる京都・四条河原。そのすぐそばに佇む南座は、江戸時代から今日まで、歌舞伎発祥の地で歴史を繋いできた日本最古の劇場だ。現在の建物は昭和4年に当時の技術の粋を尽くして建てられた美しい劇場。数年前から耐震補強のために大規模改修工事に入っていたが、この冬、その風格そのままに新開場となる。 新開場の幕開けは11月、12月と2か月連続の「吉例顔見世興行」。先ごろ演目も発表され、「待ってました!」と期待膨らむ芝居好きの間では、顔を合わせれば話題に上るトピックの一つだ。 京の師走の風物詩「まねき上げ」は、出演者の名前を記した看板を掲げる行事。ひさびさに南座前にずらりと並んだ名前を見上げれば、さぞや気分も高揚するだろう。顔見世興行の「まねき」を2か月連続で華やかに飾る坂田藤十郎が、お家芸である『新口村』亀屋忠兵衛を演じる12月が待ち遠しい。 封印切(公金横領)の大罪を犯した忠兵衛は、遊女梅川を連れて故郷、大和国新口村へ落ちのびる。手ぬぐいの頬かむり、黒地に揃いの裾模様の衣裳。この男女同じ柄を歌舞伎では「比翼」と言う。「大坂を立ち退いても」……若さゆえの過ちを、許してほしい心情を切切と訴える名場面。 雪の日の再会と別離――二人が隠れる小屋の前を、忠兵衛の父・孫右衛門が通り掛かる。雪の上で転ぶ父の姿に、助けたいが駆け寄れない息子、思わず飛び出すが名乗れない梅川、それが倅の情婦だと勘づく父。三人三様の気持ちが交錯する場面である。 この作品の浄瑠璃は、久保田万太郎の戯曲『大寺学校』でも引用されている。また、心中物3編を組み合わせた秋元松代脚本、蜷川幸雄演出『近松心中物語』は、死に向かう忠兵衛と梅川の上に無情に降り積もる大量の雪が印象的であった。数々の演劇人にインスピレーションを与え続ける名作なのだろう。 梅川の身の上を観客が知る「わしが父さん母さんは、京の六條数珠屋町」は、京都で聞きたいくだりの一つ。舞台上でしんしんと降る雪に涙した後は、南座隣の『松葉』でにしんそばでも食べて温まろうか。この冬は、楽しい恒例行事が帰ってくる。悠久40 第260回年の歴史を継ぐ新たな南座。京の年中行事の掉尾を飾る、「吉例顔見世興行」の絢爛な舞台こいびきゃくやまとおうらいにのくちむらolumnText by Fumiko KAWAZOEIllustration by Reiko OHBA (TOSHOYA)つち屋梅川=四代目 尾上梅幸 亀屋忠兵衛=五代目 澤村長十郎嘉永4年(1851年)三代目豊國(歌川國貞)画早稲田大学坪内博士記念演劇博物館所蔵右 : 新開場する京都四條 南座の内観イメージ左 : 『新口村』忠兵衛=四代目 坂田藤十郎 平成23年9月、新橋演舞場 ©松竹株式会社南座発祥四百年 南座新開場記念京の年中行事 當る亥歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎*『新口村』は12月興行昼の部で上演されます。チケット情報詳細は108ページをご覧ください。恋飛脚大和往来 新口村19“Kabuki”a sense of beauty
元のページ ../index.html#15