さまよあど生と死が出合う混沌の地照らされキラキラと輝く。原色のサリーに身を包んだ女性たちの背後には、土色をした古めかしい建物が並び立つ。世界がセピア調のフィルターをかけたかのような色彩に染まるさまを、夢見心地で見守った。 バラナシは旅人にとって憧れの街と言っていいだろう。ここはかつて「ベナレス」という英語名で呼ばれていた。日本でも三島由紀夫『豊饒の海』、遠藤周作『深い河』、沢木耕太郎『深夜特急』など、この地を舞台にした名著は数多い。インドを旅しようと思ったら、誰もが真っ先に候補地に挙げそうなほどだ。 善くも悪くも、インドらしさに触れられる街のひとつでもある。一言で形容するならば、「混沌」という表現がふさわしい。右を見ても左を見ても人、人、人。クラクションが鳴り続ける中、のっしのっしと牛が横断し、建物の上には猿がたむろしていたりもする。同じ海外旅行でも、リゾートで癒されるような旅とは対極の、刺激にあふれた体験が得られるはずだ。 大通りの騒がしさから逃れて路地へ入ると、今度は複雑に入り組んだ迷宮世界が待っている。狭い道には無数の小さな店が並んでおり、売られている物を冷やかしつつそぞろ歩くのも醍醐味である。当て所もなく彷徨ううちに迷子になってしまうこともしばしばだが、そういうときはひとまず河を目指せばいい。無事に迷路を抜けた先で、悠々と流れるガンジスに出合うと妙にホッとするのは不思議な感覚だ。バラナシには色彩があふれている。女性たちが身にまとうサリーや、灯籠に載せられた花々など、煌びやかなものを目にする度にハッとさせられる。思索に耽る修行者が絵になる。喧噪に包まれた街でありながらも、ところどころ静寂の場も混在しているのは、生と死が隣り合わせた聖地ならでは。Sacred Varanasi,The Holy Pilgrimage Centre in India
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