SIGNATURE 2019 1&2月号
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CSignature2上下日本美術の冒険 第50回最も多く描かれ、同時に最も多く消耗された、日本の文化的象徴文・橋本麻里 うちわと扇――同じもののように考えてしまいがちだが、実はだいぶ違う。うちわの起源は中国で、紀元前3世紀以前の周代から用いられ、漢代には支配者の権威を表す小道具ともなった。日本へは奈良時代に伝わり、現在でも正倉院や京都太秦の広隆寺などに遺品が残っている。 一方、「あふぎ」を語源とする扇は、薄い檜の板を糸で綴じた檜扇が、奈良時代の日本で考案され、正装である束帯を着用する場合を除き、主として冬の儀礼用とされたのに対し、夏はもっぱら紙扇(木や竹に紙を貼りつけた扇は10世紀以降に出現)を使用した。威儀を正し、涼を招き、日光を避け、顔を隠し、と実用だけにとどまらないさまざまな機能を持つ道具として、公家から武家、後には庶民に至るまで愛用されたのが、日本の扇だ。ゆえに10世紀末頃には重要な輸出品となり、中国うずまさで「倭扇」として親しまれた。 日本の象徴となった扇そのもの、あるいは扇を描いた絵画、扇を使った遊びや芸能、文芸との関わりなど、日本文化の中の扇に焦点を当てたのが、この「扇の国、日本」展だ。 平安時代末にまで遡る《彩絵檜扇》や、法華経を扇型の料紙に記した《扇面法華経冊子》など最古の遺品にはじまり、中世の重要な贈答品、刀剣や屛風と並ぶ日明貿易の輸出品として、装飾の凝らされた扇が出展される。 また直線と曲線からなる印象的な画面に、長大な物語の名場面を抜き出し絵画として定着させた作品、それらを屛風や画帖に貼り集め、スートリー全体を俯瞰できるようにした大画面作品など、独特のフォーマットの中で構図や画題に工夫を重ねながら、古代から近代まで、変奏曲のように展開していく扇の美の世界を一望する。わせんolumnText by Mari HASHIMOTO20はしもと まり/日本美術を主な領域とするエディター&ライター。永青文庫副館長。著書に『SHUNGART』(小学館)、『京都で日本美術をみる【京都国立博物館】』(集英社クリエイティブ)。 会期 : 2019年1月20日(日)まで※作品保護のため、会期中展示替えを行います。※本展は山口県立美術館(2019年3月20日~5月6日)へ巡回。会場 : サントリー美術館 東京ミッドタウン ガレリア3階開館時間 : 10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)※12月23日(日・祝)、1月13日(日)は20:00まで開館※12月29日(土)は18:00まで開館※いずれも入館は閉館の30分前まで休館日 : 火曜※1月15日は18:00まで開館※12月30日(日)~1月1日(火・祝)は年末年始のため休館お問い合わせ 03-3479-8600展覧会ウェブサイトhttp://suntory.jp/SMA/国宝 《扇面法華経冊子》巻第一 一帖 平安時代 12世紀 大阪・四天王寺[展示期間:12月12日(水)~24日(月・祝)]《舞踊図》六面 江戸時代 17世紀 サントリー美術館[全期間展示、ただし場面替あり]扇の国、日本Art

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