SIGNATURE 2019 3月号
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CSignature2 日本美術の冒険第51回文・橋本麻里狩野派、琳派、南画、浮世絵……縦割りの江戸絵画史を横断する奇想の系譜 2000年代に入ってからの、 伊藤若冲を筆頭とする「日本美術ブーム」。 そもそもの導火線となったのは、 美術史家の辻惟雄が1968年に『美術手帖』で「奇想の系譜・江戸のアヴァンギャルド」として連載、 70年に単行本化された『奇想の系譜』だ。  岩佐又兵衛、 狩野山雪、 伊藤若冲、 曽我蕭白、 長沢芦雪、 歌川国芳という、 正統な美術史研究の中ではあまり注目されてこなかった江戸時代の絵師たちの作品と伝記を、 「奇想」というキーワードを通して論じ、 江戸絵画史の重要な系譜として位置づけた。 それぞれの絵師を取り上げた展覧会は、 これまで各所で催されてきたが、 今年ついに「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」と銘打ち、 上記6名に、同様の文脈で評価される白隠慧鶴、 鈴木其一を加え、 それぞれの代表作を集めた「決定版」とのぶおろせつしょうはくえかくきいつ呼ぶべき展覧会が開催される。 また展覧会開催までに行われた調査の過程で見出された新発見・初公開作品も、 見どころのひとつ。 昭和2年(1927年)まで東本願寺大谷家に所蔵され、 30歳代の若さで描いたと推測される伊藤若冲《梔子雄鶏図》、 最晩年の作である《鶏図押絵貼屏風》はともに、 今展が初公開となる。 さらに岩佐又兵衛の工房制作とみられる《妖怪退治図屏風》、長沢芦雪《猿猴弄柿図》も初めて公開される作品。 そしてアメリカから初の里帰りが実現したのが、 鈴木其一の作中、 白眉といえる《百鳥百獣図》だ。 あらゆる生き物を緻密に描き出そうとする発想は、 若冲の《動植綵絵》や《鳥獣花木図屏風》などにも通じ、 絵師たちとその作品群が、 時代を超え、 ジャンルを超えて、 響き合いながらつながっていくさまが見て取れるはずだ。くちなしゆうけいずとりずおしえばりびょうぶえんこうろうしずolumnText by Mari HASHIMOTO18はしもと まり/日本美術を主な領域とするエディター&ライター。永青文庫副館長。著書に『SHUNGART』(小学館)、『京都で日本美術をみる【京都国立博物館】』(集英社クリエイティブ)。 会期:2019年4月7日(日)まで※2月20日(水)、3月20日(水)はシルバーデーにより 65歳以上の方は無料(要証明)。 混雑が予想されます。会場:東京都美術館 東京・上野公園開室時間:9:30~17:30※会期中の金曜、3月23日(土)・30日(土)、 4月6日(土)は20:00まで※入室はいずれも閉室の30分前まで休室日:月曜、2月12日(火)※ただし2月11日(月・祝)、4月1日(月)は開室お問い合わせ 03-5777-8600(ハローダイヤル)展覧会ウェブサイトhttps://kisou2019.jp鈴木其一《百鳥百獣図》絹本着色 双幅 各138.0×70.7cm天保14年(1843年)米国・キャサリン&トーマス・エドソンコレクション奇想の系譜展江戸絵画ミラクルワールドArt

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