Year2018 II 「喉から体に抵抗なく入っていくような、体なじみのよいお酒を目指したい。最初の飲み口にインパクトを与える日本酒は数多くありますが、続けてもう一杯と飲み進めて気持ちよく酔えるお酒は、そう多くはないと思うので」と『蔵王酒造』の若き杜氏・大滝真也さんは語る。 宮城県白石市の蔵を訪ねたのは2018年12月初旬のこと。まさに30BY(=Brewery 1日〜6月30日をひと区切りにした醸造年度)の仕込み最盛期だった。早朝6時、蔵人たちが集まってくる。作業着に着替えその日の工程を確認すると、あとは一糸乱れぬチームワークで、次々と「造り」の工程を進めていく。蔵王おろしの厳しい冬だ。の略。7月気候に慣れた蔵人にとっても、寒くないはずはないが、汗をぬぐいながらの作業。麹室は30度以上、蔵の中は氷点下に近い寒暖差の中、冷たい蔵王の伏流水を使った洗米や浸漬、重い麹米の上げ下げなど、3層になる蔵を行ったり来たりする重労働が続く。わずかな取材時間だけでも、日本酒造りの大変さと深淵を窺い知ることができた。短い休憩時間を割いて大滝杜氏はこう続ける。 「最近、蔵人たちとさまざまな銘柄の酒を酌み交わしました。四合瓶を6本ほど並べて各々が好き好きに飲んでいった時に、最初に空になったのが福島の『會津宮泉』でした。食事をしながらいつの間にか飲み切って『あれ!?空いちゃったね』というような、主張し過ぎないお酒。僕たちが目指すのも、そんなお酒です」 昨年、蔵は喜びに包まれることが多かった。「SAKECOMPETTON」で「蔵王純米酒K」がGOLD受賞とダイナースクラブ若手奨励賞の栄誉に浴する。10月には宮城県清酒鑑評会で「蔵王特別純米K」が県知事賞を受賞。仙台以北の酒蔵が多い宮城県において、仙南に蔵王酒造ありと全国に知らしめた。 そして10月末から始まった平成最後の酒造り。蔵元の渡邊毅一郎さんは、「純米、特別純米に続く、第3の柱をつくっていきたい」と、力をこうじむろしんせき 蔵王酒造杜氏「数値だけに頼るのではなく、手がもつ感覚のデータが重要だと思い始めた」大滝真也日本の食文化を応援します。おおたき しんや|『蔵王酒造』杜氏。1987年、宮城県白石市生まれ。18歳で蔵王酒造の門を叩く。2012年から就任した杉浦哲夫杜氏の下、酒造りを学ぶ。15年には杜氏に抜擢され、酒造年度「26BY」から、若手主導による新しい試みの「K(ココロ)シリーズ」に着手。蔵元の渡邊毅一郎さんや蔵人たちと日々、酒質の向上と蔵の改革を進める。「一麹、二酛、三造り」といわれる日本酒造り。右から:洗米、浸漬を経て蒸された米を麹室に移し、手作業でほぐす。/醪の溶解と発酵を促す櫂入れにもさまざまな方法がある。/通常4日間かけ3回(添・仲・留)に分けた三段仕込み。タンク内で日々刻々と変化する醪の表情は、まさに生きもの。57
元のページ ../index.html#51