込める。そんな期待を担う今年の出来栄えについて、大滝杜氏は、はにかんだように続ける。 「正直にいって、搾り上がって、瓶詰めしてみないと今季の酒造りがうまくいったかどうかはわかりません。極力前段階でわかりたいとは思っていますが……。たとえば浸漬という米に水を吸わせる工程で水分量を量ります。適正な数字にしてから蒸しますが、同じ水分量と時間をかけても、蒸し上がりには違いが出ます。ですから数字が100%ではなく、最後は手がもつ感触で量ったほうがよいのではないかと考え始めています。今シーズンは新たな分析機器も導入しましたし、白米水分や酒母などのデータも蓄積して大切にしたいです。数値という〝データ〞と〝手探り〞という人間の感覚の両方を並行して積み上げていければ……」 「広島の酒造好適米『八反』を使っ 新たな柱として一番期待をしているのが、Kシリーズの純米吟醸。メタリックピンクをあしらったラベルは、純米、特別純米よりもほのかに甘い仕上がりになることからイメージされたものだという。ています。何が優れているのかといえば、山田錦と比べても圧倒的に心白(米の中心にある不透明な部分)の発生率が高いことです。それによって麹もつくりやすく、お酒がとてもやわらかく仕上がるんです。ただ、難しいところも。それは原料処理の部分で、心白が大きいだけに、水を吸わせる加減の見極めがなかなか手強いんです。八反を使い始めて4年が経ちましたが、やわらかくて香り立つような酒にするべく試行錯誤をしています。残念ながら、まだまだこの米なりの最高のものができたと断言できるところまでは到達していません。理想の形である、体なじみのよいスルスルと飲めるお酒を別の言葉で表現すれば、膨らみはあるけれどもスッと切れてくれるものです。ただ、キレとやわらかさを共存させるのはなかなか大変で……。八反をうまく使いこなせれば、やわらかみの中に余韻がほどよく収められるようになるのではないかと確信しています」 権威ある賞を獲得し、『蔵王酒造』は次の高みを見据えている。杜氏・副杜氏の若い力とベテランの経験が雰囲気よく融合した現場には、緊張感が張り詰めていた。成功する組織のチームワークとはこういうものなのではないか。「心を込めて醸し、心を込めて管理し、心を込めて届ける」――「蔵王」らしさを追求する旅は今日も続く。しっかりとした旨みと心地よい後口のキレ。Kシリーズの通年定番酒日本の食文化を応援します。明治6年(1873年)創業。毎年11月から3月までの年1回醸造方式。地元産契約栽培米などを主に使用し、一貫して品質本位の酒造りに徹する。スタッフは右から工藤孝男、八島勝也、大滝真也(杜氏)、渡邊毅一郎(蔵元)、吉川 輝、金子純平(副杜氏)の6名(敬称略)。宮城県白石市字東小路120-1電話 0224-25-3355 www.zaoshuzo.com「SAKE COMPETITION 2018」GOLD受賞の「蔵王 純米酒 K」。宮城県産トヨニシキ65%精米。 720ml 1,150円(税込)。「蔵王 特別純米酒 K」と共に蔵の柱として期待されている。グラスは葛西薫デザインの木本硝子「瑠璃」朝 200ml 3,024円(税込)。年ごとに原料米や酵母を変えるチャレンジ酒「蔵王 特別純米酒 K KURA Chic(クラシック)」。「29BY」は北海道産「吟風」55%精米。720ml 1,377円(税込)。低温熟成で発酵を促したすっきりとした飲み口。58蔵王酒造
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